頼れない政府には頼らない。自主独立としての「逃散」

古賀 あとは、「年収300万円」に近いところもあるんだけど、最後の方に「もはや『逃散(ちょうさん)』以外に残された道はない」(2023年1月)というのが出てくるでしょう?

飯田 ふふふ(笑)。そこ、いいですよね。

──本来の「逃散」は歴史用語ですが、森永さんがおっしゃっているのは、増税や社会保険料負担増への抵抗と、都会に縛られる生活からの脱却ですね。都会と田舎の中間「トカイナカ」に住まいを移し、畑を借りて野菜を育てて物々交換、自家発電するなどしつつ、住民税非課税ギリギリの収入(夫婦で200万円)で生活をしようという提案でした。

古賀 今の僕らの心境は「逃散」に近いですよ。今度の衆院選では高市さんが大勝利して、対抗勢力らしい勢力もないわけだから、リベラル側のかなりの人は「もういいや」ってあきらめかかっているんじゃないかな。

かつての森永さんにも、そういうところがあったんですよね。20年近くずっと政治についてあれこれ指摘してきたにもかかわらず、日本は進んではいけない方向にどんどん進んでしまっている。じゃあ、本当にダメになったら最後はどうするか、ということを自らに問いかけた。それで、「逃散」しかない、と。でも、そこにもちゃんと幸福はあるんだと言っています。

──そこで重要なのが、小規模な「マイクロ農業」に加えて、分散型エネルギーなんですね。今までの火力、原発といった中央集権的な発電に頼らない、太陽光などの再生可能エネルギーの分野に光を見出していく。

飯田 そうなりますよね。これは『Ei革命』にも急遽入れたんですが、去年の秋、イーロン・マスクがぶっ飛んだ発言をしたんですよ。サム・アルトマンやビル・ゲイツが核融合や小型原発に取り組んでいるけれど、地上でそんなことをして何になる、と。太陽系の質量の99.8%は太陽という核融合炉なんだから、その余りあるエネルギーこそ使うべきだと。

彼は、「太陽光AIデータセンター衛星」を打ち上げて太陽光エネルギーで駆動させ、演算結果のデータだけを地球に送信することも計画しています。日本の環境派とリベラルはマスクのことを嫌いな人が多いですけど、彼が本質を見てやっていることはすごいと思いますね。

古賀 そうなんだよね。飯田さんのこの本も、最新の情報やデータに基づいて非常に論理的に説明してくれているから、エネルギー関係のことを伝えやすくなるなと思いました。

飯田 ありがとうございます。

──『Ei革命』では、「エネルギーの大転換」において、太陽光や風力などの再生可能エネルギーと、そこから生まれる電力の安定供給のための蓄電池、そして蓄電池を搭載する電気自動車(EV)が非常に大きな役割を果たすと書かれています。

故・森永卓郎は「予言の人」だった。橋下徹への熱狂の危うさ、トリクルダウンの嘘、そして「年収300万円時代」の的中。高市政権に繋がる暗黒の2010年代_4

古賀 かつてテスラのEVが大きく伸びたときに、パナソニックの蓄電池が使われていましたよね。パナソニックの2015年の世界シェアは37%でダントツ。日本勢全体では過半を占めていました。でも、巨大なパナソニックにとって電池というのは一部門だし、トヨタはまだハイブリッドだから、積極的な投資に踏み切れない。

その間に、テスラは追い上げてきた中国や韓国の電池メーカーを頼るようになりました。今、パナソニックの車載蓄電池のシェアはものすごい勢いで下がっていますよね。直近ではどのくらいですか?

飯田 世界7位で、占有率は3~4%ですね。蓄電池も、半導体の敗戦と同じ轍を踏んでしまっています。そして、それを積むEVも遅れている。「自動車産業が最後の一本足打法」なんて経産官僚が自嘲的に言うくらいだし、トヨタ一社が全体を支配しているから、世界的に見てもほとんどEVが普及していない珍しい国が、日本なんです。

それに、AIがダメだから、日本には自前の自動運転技術がない。現時点ではテスラの「フルセルフドライビング(FSD)」がトップで、中国も、運転手なしでカメラだけの「エンド・ツー・エンド(E2E)」方式(状況の認知から運転制御までを一連の流れで行う方式)に突っ走っています。

2月にアメリカの公聴会と国連の会議で、ルールベース(運転に必要な交通法規をAIに学習させる方式)ではなくE2E方式を認めていく方向のドライブがかかったこともあり、これからAIの自動運転開発が一気に加速するはずです。

先日、アメリカで自動運転のロボタクシーに乗ってきましたけど、これが普及したら、旧来の自動車の売り切りビジネスは成立しなくなりますよ。スマホで呼ぶだけなので、今よりずっと少ない台数で移動需要をまかなえる。それは、単に動力としてEVが主流になるのみならず、車を数多く売って売り上げを立てるというこれまでのビジネスのあり方まで変えてしまう。日本やドイツの古い自動車産業は、いずれ「巨象倒れる」みたいなかたちで、一気に変わると思います。あとは時間の問題です。

故・森永卓郎は「予言の人」だった。橋下徹への熱狂の危うさ、トリクルダウンの嘘、そして「年収300万円時代」の的中。高市政権に繋がる暗黒の2010年代_5

──これから日本の製造業はどうなるのでしょう?

飯田 パーツではまだまだ頑張っているんだけど、デジタル、AIで負けて、「最終製品」で世界に通用するものは一気になくなってしまう恐れがありますね。

古賀 なくなるかもしれないけどね、なくなってもいいというふうに思わないとダメですよ。なくなっちゃ困るという頭で、「日の丸ジェット」とかまだやっているでしょう? ああいうのは結局、経産省の自己満足じゃないかと思う。経済大国だったときの大国主義的な産業政策ですよ。

飯田 本当にそうですよね。

古賀 今や日本のGDPの世界シェアは3%くらいなんだから、それなりの存在感を持っていればいいというふうに考えるべきです。それに、部品や材料に関しては、まだ強い部分がいろいろありますよね。その中で、高いシェアをとれるもの、ボトルネックを握れるようなものに集中的に投資することが重要なんですよ。

──資源国ではない日本が低迷を続け、最後の基幹産業も揺らぐというのは、非常に恐ろしい話に聞こえます。

飯田 そうなったときに一番怖いのは、政治や社会が劣化することです。今でもカルト的な政党が出てきて、でたらめを言いっぱなしみたいな状況になってきていますが、今後はもっとひどくなるんじゃないでしょうか。それもあって、さっきの「逃散」なんですよね。落ちていく社会の中で、まずはとにかく生き延びなくちゃならなくて、そこから次の世代、新しい社会を育てることを考える必要があると思うんです。

──「逃散」については、実際、行動に移せるかどうか、というのもありそうですが。

古賀 「逃散」は確かに魅力的な選択肢で、私もやってみたいんだけどね、家族がいれば同意を取らなきゃいけないですよ。試しに妻に聞いてみたら、あなた一人で行ってと言われちゃったけど(笑)。

でも、現実に国がひどい状況になっているわけで、政府が助けてくれるとは思えないじゃないですか? 誰も当てにならない。そうなると、森永さんも菅原文太さんも言った通り、やはり農業なんです。エネルギーも自給自足の分散型にしていく。そういう「場」に心ある人たちが集まって、助け合うということですよね、本当の最後は。「俺が、俺が」みたいな人がいるとうまくいかないです。必要なのは、フラットな助け合いの精神……。もしかすると、原始的な共産主義に近い世界なのかな?

──森永さんは、「小規模」「ローカル」「分散」「地方分権」の重要性を説き、近くの人と助け合うというマハトマ・ガンジーの「隣人の原理」も提案されていました。

飯田 エネルギーの自給自足の観点でいうと、4年前にドイツで始まったベランダ・ソーラーというのがあります。今はソーラーパネル1枚ごとにインバータをつけられるから、直に交流電力ができる。それを家庭のコンセントに入れて使うんですね。これに関しては、なにかと厳しいドイツが国や電力会社への申請不要、消費税不要、節約した電気代分の所得税も不要としたので、利用者が爆発的に増えました。それを今、ヨーロッパ全域とアメリカのいくつかの州でもやろうということになっているんです。

しかも、もともとパネル2枚で800Wだったのが、今では蓄電池もセットにして2000W対応にしているんですよ。冬以外の季節なら、ほぼ1日分の電気がまかなえます。日本では東京都と太陽光発電協会が導入を検討中なんですけど、建築基準法が、経産省が、電力会社が等々、いろいろあるみたいです(笑)。個人で実験的に導入している方もいらっしゃいますね。

故・森永卓郎は「予言の人」だった。橋下徹への熱狂の危うさ、トリクルダウンの嘘、そして「年収300万円時代」の的中。高市政権に繋がる暗黒の2010年代_6

古賀 マンションの外付けは落下の危険があるだろうけど、戸建てなら問題ないですよね。僕もやってみようかな……。そういえば、飯田さんが野辺山(長野県佐久郡)で関わっておられたソーラー発電のプロジェクトって、今どうなっていますか?

飯田 「野辺山営農ソーラー」ですね。去年、太陽光発電協会が主催する「ソーラーウィーク大賞」を受賞しました。八ヶ岳のふもとで、耕作放棄地の地権者の息子さんとほうれん草農家の若い二人が中心となって、営農型太陽光発電に取り組んでいます。ソーラーパネルの下で、今年の春から本格的にブルーベリーやほうれん草を育てます。

それと、元々の土地だけでは狭いからと新たに買い足した土地に別荘がついていて、それが、30人くらい子供が泊まれるような築50年の建物なんですよ。この春から、蓄電池を入れた完全エネルギー自立の合宿所かつブルーベリーカフェみたいなかたちにリノベーションする予定です。こういうところが、さきほどの「逃散」の取り組みの場になりうるんじゃないかと。

古賀 野辺山に「逃散」か(笑)。

飯田 おそらく今年の夏からは泊まれるし、バーベキューもできるでしょう。八ヶ岳を見上げる、すごく眺めのいい場所です。

古賀 標高が1300mあるから、夏でも涼しいしね。

飯田 そして、夜は星がめちゃくちゃきれいです。何かそこでイベントができればいいんじゃないですか。古賀さんが第1回の講師で……、逃散塾?

古賀 森永卓郎記念の逃散塾。名前がいいね(笑)。

故・森永卓郎は「予言の人」だった。橋下徹への熱狂の危うさ、トリクルダウンの嘘、そして「年収300万円時代」の的中。高市政権に繋がる暗黒の2010年代_7
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飯田 ゲストを呼んで、そこから配信したり。食べ物は地元の農家や生活クラブ生協の協力を仰げば心配ないでしょうし。古賀さん、塾長をお願いします。

古賀 いいですね(笑)。まだ耕作放棄地はあるだろうし、そういうところを別荘地にしたら、送電線につながなくても作った電気を供給できそうだし、広がっていきますね。逃散塾、ぜひやりましょう!

撮影/五十嵐和博 構成/集英社新書編集部

森永卓郎の戦争と平和講座
著者:森永 卓郎 解説:古賀 茂明 編者:マガジン9編集部
森永卓郎の戦争と平和講座
2026年1月17日発売
1,056円(税込)
新書判/256ページ
ISBN: 978-4-08-721396-6

2008~2023年に書かれた、日本政治への警鐘を鳴らす連載コラムを一冊に。
「モリタク」ならではの洞察と大胆な提言が、今の日本にも深く鋭く突き刺さる!

がん闘病の末、2025年に亡くなった経済アナリストの森永卓郎。「モリタク」の愛称で親しまれた彼が2023年までの18年にわたってウェブ週刊誌「マガジン9」に寄稿した連載コラムより、時の政権に切り込み、経済理論に裏打ちされた国家と政治のありようや平和で平等な社会の実現について提言した、38のタイトルを選んで新書化。
民主党政権の失敗と安倍政権の復活、普天間飛行場移設問題、対米追従と日本の右傾化、新自由主義・グローバル経済の弊害、集団的自衛権と自民党憲法改正草案、消費税増税と日本経済の衰退など、ここ15年ほどの諸問題を森永はリアルタイムでどう考え、いかに対峙したのか。その軌跡には、これからの日本を生きる私たちへのヒントが詰まっている。
解説は、元経済産業省の改革派官僚で政治経済評論家の古賀茂明が担当。森永が危惧し予言した延長線上にある、日本の現状を分析する。

「この本を読んだ方のなかには、10年以上前に書かれたコラムの内容が、
いまの状況を見て書いたのではないかと感じる人が多いでしょう」
(解説――古賀茂明「正真正銘の岐路」より)

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Ei革命 エネルギー知性学への進化と日本の針路
飯田 哲也
Ei革命 エネルギー知性学への進化と日本の針路
2026年1月26日発売
1,980円(税込)
四六判/256ページ
ISBN: 978-4-7976-7473-6

すでに始まっている文明史的エネルギー大転換の全体像。これは環境問題ではなく、世界の経済構造を根底から変えるパラダイムシフトである。

世界では、再生可能エネルギーと蓄電池のコスト革命ならびに指数関数的な成長が進み、課題は「電力不足」ではなく、“ありあまる電気”の活用へと移った。日本がとるべきは、中央集権インフラの延命ではない。鍵は 「Ei=Electricity(電気) × intelligence(知性〈人間+AI〉)」。化石燃料依存から、電気を賢くつくり・ためて・使う設計へ。本書は、世界中で出現しつつある「シン・オール電化社会」という新しいOSの姿を描き出し、企業・自治体・生活者が取るべき実装ステップを提示する、政策とビジネスの実践書である。
※本書でいう「エネルギー知性学」は、「エネルギー地政学」に対置される新しい考え方の枠組み。

【目次より抜粋】
はじめに 電気が足りない?――神話の解体と新しい現実
第1章 UAEコンセンサス――世界が合意した未来の設計図
第2章 バッテリー・ディケイド――エネルギーの新しいOS
第3章 カーマゲドン――自動車産業の創造的破壊
第4章 シン・オール電化の時代へ――新しいエネルギー文明の原理
第5章 21世紀の電力システム――硬直から柔軟へ
第6章 RE100への道筋――世界のトップランナーに学ぶ
第7章 「第7次エネルギー基本計画」の読み方――「真田丸」からGXまで
第8章 原子力に固執する「病」と「沼」――病理的政策への診断と処方箋
第9章 落後する日本――停滞の病理学
第10章 「ソーラーはお嫌いですか」――太陽光への批判的言説の検証
第11章 日本のエネルギー再生への処方箋
第12章 コミュニティパワーという希望――地域からの再創造
おわりに ありあまる電気――豊かさの再定義

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