この文章は2014年12月10日に書かれたものです。

平和活動家、菅原文太さん

私は経済が専門なので、ここでは経済の問題を書くべきだと思う。特に総選挙でアベノミクスが最大の争点になっているのだから、その評価をきちんとすべきだ。ただ、私は今回、そのことを書きたいのではない。

アベノミクスの評価は単純だ。第一の矢と第二の矢の効果は確実に存在した。景気動向指数を見ると、野田内閣が解散総選挙を宣言した一昨年11月以降、ほぼ一直線で上昇した。円安と株高が進んだだけではないかという批判もあるが、雇用情勢は大きく改善したから、庶民にとってもメリットはあった。

問題は、景気動向指数が今年3月にピークをつけ、その後坂道を転げ落ちるように景気が悪化していることだ。

もちろん、景気悪化のタイミングは消費税率の引き上げだから、犯人は消費税引き上げ以外に考えられない。消費税引き上げにともなう大きな物価上昇が実質所得を減らし、消費を減退させたのだ。

だから、アベノミクスが失敗したのではなく、消費税の引き上げが失敗だったのだ。

ただ、消費税については、少なくとも2017年3月までは再引き上げをしないということで、意見の対立はない。つまり、そこで争っても、ほとんど意味がないのだ。

本当に議論を進めなければならないのは、「戦後レジームの転換」についてだ。

俳優の菅原文太さんが亡くなった。私たちの世代にとっては、『仁義なき戦い』や『トラック野郎』などに主演した映画スターだが、菅原さんは、もう一つ、平和活動家としての顔も持っていた。

特に東日本大震災をきっかけとして、映画俳優を引退してからは、積極的に活動していた。沖縄県知事選挙のときにも、辺野古移設反対を掲げて、翁長雄志候補の応援に立った。

東日本大震災の被害の様子 (写真/Shutterstock)
東日本大震災の被害の様子 (写真/Shutterstock)
すべての画像を見る

そのときに菅原さんは、こんなことを言っていた。「政府の役割は二つあると考えています。一つは、国民を飢えさせないこと。そして、一番大切なことは、戦争をしないことです」。

菅原文太さんは、当たり前のことを言っていただけだが、実はこれが当たり前でなくなってきているのが、いまの日本だ。

一番の問題は、戦後70年近く経つと、人々の記憶から戦争の悲惨さが消えていくことだ。菅原さんは昭和8年生まれだから、直接戦争を経験している。しかし、そうした人たちが、いま日本から次々に姿を消していっているのだ。そうなると、社会全体としても、戦争への危機感が薄らいでいく。危機感が薄らげば、威勢のよいことを言う人が、支持を広げていくのだ。