「人が暮らせるアート作品」を建てる

塚原 菱田さんとの出会いは強烈でした。僕たちには共通の知人がいて、その方のご紹介で、ここ長野県の坂城町にある菱田さんのご自宅でお会いしたんですよね。僕は出家しているのでオレンジ色の袈裟を着てきたと思うんですけれども、菱田さんの最初の印象はむっちゃ怖かった。

菱田さんはど直球に信念的なものを聞いてこられる方なので、「塚原さんは何を大切にしごとされていますか? 塚原さんの信念ってどこにあるんですか?」というのをアイスブレークほぼなしで。(笑)開口一番、「どういう信念でしごとをしているのか?」と聞かれて面食らいました。

そのときは緊張していたのでうろ覚えなんですけど、「職人さんの情熱を欠かないものづくりができるような環境をつくりたい。手しごとの美しさというものをいろんな人に知っていただきたい」といった感じの話を多分しました。そうしてお話しをしているうちに御納得いただけたのか(笑)、「じゃあ話してやろう」という姿勢になっていただいたのかなと思っていまして。

菱田 私は誰に対してもそのスタイルなので、塚原さんのような若い人が来たから試すとか、そういうつもりは全くなくて。自分は今でもまだまだ未熟者だし、学ぶべきことはたくさんある、まわりの人たちに生かされていると思っている節もあるんです。

私はいわゆる座学的な学びができなかった男なので、世の中に出て出会う人、あとは自分が触れたものとか見たもの、そこから学びきっていくという生き方しかできない。その中で、初めてお会いした人と意味のない会話をするとか、時間の無駄を感じてしまうんです。

あのときは、「こんな若いのに、なぜ伝統工芸を世界に届けるようなしごとをしているのだろう?」と単純に興味が湧きました。「この方ってどういう生き方しているんだろう? そこから何か学びがあるんじゃないか?」と思って聞いただけです。そんな私のどストレートな質問に、塚原さんは真正面から答えてくれました。

塚原 菱田さんとのおつきあいは2年ちょっとでそんなに長くないんですけど、かなりお会いしていますし、いろんな地方も一緒に行かせていただいています。イタリアも一緒に行きました。イタリアでは、小さな村を拠点にグローバル市場でのビジネスを成功させている高級カシミアの会社「ブルネロ・クチネリ」に行きました。インドも一緒に行きました。

菱田 インドでは「スタジオ・ムンバイ」に行きましたね。施工までを手しごとで行なう世界的な設計事務所で、代表のビジョイ・ジェインさんはものづくりの精神を大切にされている方でした。ブルネロ・クチネリは、創業者のブルネロさんが提唱している「人間主義的資本主義」がどんなものかを確かめたくて、本社のあるソロメオ村まで行きました。

大工アーティストの菱田昌平さん
大工アーティストの菱田昌平さん

――菱田さんもスタジオ・ムンバイとかブルネロ・クチネリと同様のマインドでものづくりをされていると思うのですが、菱田さんが名乗っている「大工アーティスト」とは、どのような存在なのでしょう?

菱田 この自宅が建てて10年近くになるんですけど、いろんな方が遊びにいらっしゃっていて、ある世界的なアートプロデューサーの方もいらっしゃったことがあります。そのときに現代の大工さんが忘れてしまった(まさかり)とか手斧(ちょうな)による手しごと、7世紀前後ぐらいに盛んに行なわれていた手しごとが私は一番美しいものだと思っているのですが、その実例を示しながら家の中を紹介していきました。

そしたらその方に「菱田さん、アートとデザインの違いってわかりますか?」と尋ねられたんです。私は座学的なことは知らないので「わかりません」と答えたら、その方は「アートは問題提起、デザインは問題解決です」とおっしゃいました。「菱田さんの御自宅はアートですね」と。

なぜかというと、菱田さんが先ほどから説明しているのは問題提起ですよねと。家の建築を通じて、世の中と建築業界に対する問題提起をしている。「だからこの家はアートだ」と言ってくれたんです。

その方はちょうど前日に、東京で有名建築家の展示を見てきたそうですが、「私はこの家のほうが好きだ」とおっしゃいました。世界中でいろんなアート作品を見ているけれど、「人が暮らせるアート作品」は初めて見たと。

坂城町の菱田邸
坂城町の菱田邸