観光産業の足腰を弱らせる行為そのもの

合理的な経済運営の視点に立てば、行政の役割は市場の阻害要因を取り除き、民間の活力を最大限に引き出すことにあるはずだ。しかし、今回の増税はその逆を行く。

特に深刻なのは、ホテル経営への打撃だ。ホテルは装置産業であり、維持費や人件費などの固定費が高い。利益率は決して高くないのが一般的だ。そこにきて、宿泊税である。

利益が圧迫されれば、ホテルは設備投資を控え、従業員の賃上げを躊躇するだろう。サービスの質は低下し、国際競争力も失われる。東京を「世界一の観光都市」にするというスローガンとは裏腹に、やっていることは観光産業の足腰を弱らせる行為そのものだ。

行政側は、増税の正当性を主張するために「オーバーツーリズム(観光公害)」という言葉を持ち出す。観光客が増えすぎて住民生活に支障が出ているから、税金を取って抑制する、あるいは対策費に充てるのだ、と。

東京は本当にオーバーツーリズムの状態なのか

小池東京都知事(本人Xより)
小池東京都知事(本人Xより)

だが、現在の東京は本当にオーバーツーリズムの状態にあると言えるだろうか。

確かに、浅草や渋谷のスクランブル交差点など、局所的に混雑している場所はある。しかし、東京は巨大なメガロポリスだ。狭い道路にバスが詰まって動かないわけでもなければ、下水処理能力が限界に達しているわけでもない。世界屈指の地下鉄網と都市インフラを持つ東京には、まだまだ受け入れの余力がある。

さらに言えば、足元の状況は変わりつつある。

高市政権下における対中関係の悪化や、台湾有事を巡る地政学的な緊張により、最大の顧客であった中国人観光客の足は遠のいている。街からはかつてのような爆買いの熱気は消え、むしろ静けさが戻りつつあるのが現実だ。

「観光客が押し寄せて困っている」という前提自体が、すでに崩れ去っているのだ。客が減り始めている局面で、さらに客足を遠のけるような増税を行う。これほど間の悪い経済政策があるだろうか。

今回の見直しをめぐっては、ホテル業界や関連団体の間でも受け止めは一様ではない。

一部団体が都の案に一定の理解を示したと報じられる一方、負担増への懸念を強く訴える声も存在する。

こうした状況の中で、都が「業界の理解を得た」と説明する場合、その根拠やプロセスがどの程度開示されているのかは、政策の正当性を判断する上で重要なポイントとなる。

業界内の意見が割れているにもかかわらず、その違いが十分に可視化されないまま「理解が得られた」と整理されるのであれば、政策形成の透明性に大いに疑問が残る。