懸念されるのが「企業の出張旅費規程」への影響
ここに行政の透けて見えるご都合主義がある。要するに、「取れるところから、取ってやろう」ということだ。
この増税がもたらす実害として、最も懸念されるのが「企業の出張旅費規程」への影響である。ここに、役人の想像力が及ばない現場のリアリティがある。
多くの民間企業では、社員が出張する際の宿泊費に上限を設けている。現場クラスなら1万5000円、部長クラスなら2万円といった具合だ。
しかし、昨今の物価上昇とインバウンド需要の増加により、都内のホテル価格は高騰を続けてきた。多くのビジネスマンは、予約サイトと睨めっこをしながら、会社の上限規定に収まるホテルを必死で探しているのが現状だ。
これまで1万4800円で泊まれていたホテルがあったとしよう。会社の規定が1万5000円なら、ギリギリセーフだ。しかし、ここに新たな宿泊税が重くのしかかる。数百円、あるいは1000円単位の増税がなされれば、総額は1万5000円を超えてしまう。
この増税が経済全体に与える悪影響
たった数百円の超過でも、組織のルールは厳しい。「規定違反」となれば、該当するホテルには泊まれない。あるいは超過分を自腹で払うか、煩雑な理由書を書いて経理に頭を下げることになる。結果、何が起きるか。彼らは東京に泊まることを諦めるのだ。
「東京は高いし、規定に収まらないから、埼玉の大宮や千葉の柏に泊まろう」
そう考えるのは合理的な判断である。電車で数十分移動すれば、規定内に収まるホテルが見つかるからだ。これは、東京都の民間企業から見れば完全な「機会損失」である。
わずかな税収を得ようと欲張った結果、宿泊客そのものを周辺の県へ追い出してしまう。ホテルは客を失い、飲食店やタクシーなどの関連産業も潤わない。東京という都市が生み出すはずだった経済効果が、みすみす県外へ流出していく。
経済学で言うところの「死重損失(デッドウェイト・ロス)」が、ここにはっきりと見て取れる。行政が市場価格に不用意に介入することで、本来行われるはずだった取引が消滅し、社会全体の富が減少する現象だ。
次に、この増税が経済全体に与える悪影響について論じたい。
ホテル産業は、単なる観光業ではない。人流を支え、商談を成立させ、情報の交流を促進する「都市のインフラ」である。その利用コストを引き上げることは、経済活動の摩擦係数を高めることに他ならない。













