シリーズの始まりは「大津事件」
三部作の構想と形式について

──『抵抗都市』は一九一六(大正五)年十月二十六日に本編が始まります。おやっと思って歴史年表を見ると、翌年の三月十二日にはロシアで二月革命(ユリウス暦)が、さらにその八ヶ月後の十一月二日には十月革命(同)が起こります。『抵抗都市』を読んだ後に、何冊になるかはわからないが、必ずやこの二つの革命を背景にした続編が書かれるに違いないと、大いに期待したものでした。その期待に違わず、二月革命の直前から幕を開ける『偽装同盟』が上梓され、今回十月革命の直後から物語が始まる本書『分裂蜂起』が刊行されたので感慨無量であります。

『抵抗都市』のプロローグでは「大津事件」を描きました。訪日中のニコライ皇太子に、道路警備に当たっていた警察官の津田三蔵(さんぞう)が斬りつけ、重傷を負わせた事件です。ロシアとの関係が危機的な状況になるのではないかと政府が震撼した史実を三部作の冒頭に置き、歴史に詳しい方なら想像がつくでしょうが、国内に多大な影響を与えたある出来事を本書の最後に据えるという構想がありました。

──佐々木さんの代表シリーズの一つである北海道警察シリーズなどは、現代を描いていますが、時の流れがゆるやかじゃないですか。それに対して改変ものとはいえ、史実と対比しなければならない本書のような作品は、全く書き方が違ってくると思うのですが、いかがでしょうか。

 間違いなく違いますね。道警シリーズは完全にコンテンポラリーな、いまの話として書いています。とはいえ二十年かかって十一作なので、小説内の時間と現実の時間の流れはシンクロしていません。ゆるやかに時間が流れる、一種のサザエさん方式ですね。一方こちらは歴史の大きな局面で、動かしようのない史実の中に、どうやって物語を落とし込んでいくかなので、また別の頭を使って書いていますね。

──さきほど改変歴史小説を書くに当たり、刑事が捜査する警察小説でもあるということを伝えて、やや当惑顔だった編集者からオーケーが出たとうかがいましたが、その構想は苦肉の策ではなく初めからのものだったのでしょうか。

 ずっと警察小説を書いてきたし、警察小説の形で過去の歴史が改変された小説も書けることは確信していたので、最初から警察捜査小説の形を借りることは決めていました。

──日本の法律はあっても統監府の横やりは避けられませんし、『偽装同盟』でもある容疑者の身柄が統監府に捕らえられたりしました。統監府保安課にはコルネーエフ憲兵大尉というすべての作品で新堂と絡むなかなか魅力的な人物がいますが、そういう制約がある中での物語作りは大変だったのではないでしょうか。

 もともと警察小説の形を取っていましたので、警視庁管轄の犯罪を扱うことと決め、主人公の新堂が警察官として活躍できる題材にしていくつもりでした。直接に統監府と、ひいてはロシアと対立して戦う話にしてしまうと、それはもう警察小説ではなくて、スパイ小説か冒険小説になってしまいます。先ほど言ったように、あくまでも警察小説をやるつもりだったので、取りあげている犯罪もそういったものになっています。

「どうだい、こんな終わり方なんだぜ、という感じのラストになったと思います。大きな日本の歴史を変えた物語をどうたたんだか、最後まで楽しんでもらえたら」
「どうだい、こんな終わり方なんだぜ、という感じのラストになったと思います。大きな日本の歴史を変えた物語をどうたたんだか、最後まで楽しんでもらえたら」
すべての画像を見る