「ものづくりの本質は人づくり」

現地で実感したのは、彼らが作る衣料品のクオリティもさることながら、柳宗悦が語ったような分業制のものづくりで育つコミュニティの現代版が、ここでは実現しているということだ。

特に印象的だったのが、若い人たちへの伝承の仕組みだった。作業場のあちこちにグレーの同じTシャツを着た人たちがいて「あれは何かの制服ですか?」と聞くと、「いや、彼らは職人学校の学生なのです」と説明された。

詳しく話を聞くと、学費は奨学金で免除され、働いたぶんの給料も支給されるという。生活に不安を抱えたままでは充実した修業もできないから、暮らしの保障をしたうえで学んでもらう方針なのだという。

そうした学生が現場のそこかしこにいて、縫製やテーラリングなどの分野ごとに、一人ひとり、師匠のような人が教えていたのはすごいと思った。皆が生き生きと働いているように思えた。

ブルネロ・クチネリの工房 写真/Shutterstock
ブルネロ・クチネリの工房 写真/Shutterstock

また、そうした研修中の人たちが作った服は、正式な商品としては市場に出せないものの、衣服が不足している児童養護施設などに寄付する形で循環させているという。なお、研修を経て正式にスタッフになる人々も多い一方、それを義務づけてはいないようで、その後に別のところで働くのも、あるいは独立するのも、本人たちの意思が尊重されるとのことだった。

ほかにも、地元の食材を活かした社員食堂のメニューがすごく美味しそうだったことや、クチネリさんの読んだ本が寄贈されている図書館が現地にあったことなども、印象深かった。一流のものづくりと、地域振興・次世代の育成が自然と共存していることが感じられた。

「ものづくりの本質は人づくり」。そんな言葉も心に浮かんだ。そこでは美意識こそが資源であり、モノを作るにも、その技術を継承するにも、またそうして生まれたモノを暮らしにおいて愉しむ際にも、その美意識が息づいているように思えた。