懇親会の直後にも無意識なセクハラ行為
今回の反響で多かったのは、「被害者の感じ方次第でアウトになるなら怖い」「さすがに過剰では」といった声だ。セクハラというと、身体に触る、露骨な性的発言をするといった、分かりやすい行為を思い浮かべる人も多いだろう。
だが今回の判決が問題にしたのは、「ちゃん付け」そのものではない。不快でも指摘できず、場の空気に合わせてやり過ごすしかない関係性が、職場にあったかどうかだ。
元工場経営者でトラックドライバーの経験もあり、現在はブルーカラーの労働環境などを専門に取材・執筆するライターの橋本愛喜さんに、その実情を聞いた。
「ブルーカラーのような超男性社会のなかでは、中年女性である私でも、その日に会ったばかりの男性から“ちゃん付け”されることがよくあります。
日ごろ、ライター活動のかたわら経営者向けの講演会をしていますが、ある会場では、『女性の働きにくさ』を話した30分後に開かれた懇親会で、乾杯の挨拶に立った役員男性がマイク越しに『今日は橋本先生、あ、先生と呼ばれるのはイヤなんですよね、橋本さん? いや、あいきちゃん』と発言されたことがありました。ほぼ男性の会場は、それにドッと笑いが起きる。そんな業界の世界観に毎度悩まされています」
一方で、それに反発すると「かわいくない」「生意気」と受け取られることも多い。なかには態度を一変させ、「ちゃん」から急に「先生」と呼ぶようになる男性もいるという。また、そうした男性に対し、大勢の前で「君付け」で返すと、一気に不機嫌になるケースも少なくない。
こうした背景について橋本さんは、「人手不足が深刻化する一方で、依然として男性比率が高く、女性が少数派になりやすい業界構造」があると指摘する。
「人手不足が深刻化するブルーカラーでは各業種、女性労働者を受け入れようとする動きはあるもののまだまだ完全な男性社会。トラックドライバーの女性割合はたった3%です。そのうえ、体を使った仕事をする環境、またはそんな労働者が身近にいることで、自覚のないセクハラが頻発しやすい環境だといえます」













