大衆心理に巧みに溶け込んだ推し活消費

推し活には、コンテンツが「サブカルチャー」から「メインカルチャー」に移ってゆく過程で大きな市場が形成される傾向があるようだ。

サブカルの枠組みから脱したコンテンツの1つに「アニメーション」がある。1990年代から2000年代初頭にかけては深夜アニメが台頭していたが、視聴者層はいわゆるオタクで、一般大衆が見るアニメといえばジブリ作品などがメインだった時代がある。

しかし、2006年公開の細田守監督の映画「時をかける少女」や2009年公開の「サマーウォーズ」などから風向きが変わり始めた。そして、2016年公開の新海誠監督の映画「君の名は。」が興行収入250億円のメガヒットとなり、一般人がさまざまなアニメ映画を観るという土壌を作った。

さらに2022年の『SPY×FAMILY』や『チェンソーマン』、2023年の『【推しの子】』などにより、テレビアニメもよりいっそう大衆化した。

この過程で、アニメのキャラクターは「萌え」から「推し」の対象へと変節している。Googleの検索需要を調査するGoogleトレンドで「萌え」と「推し」の変化を時系列で調べると、「萌え」の収束とほぼ同じタイミングで「推し」が立ち上がっているのだ。

※Googleトレンドをもとに独自に調査
Googleトレンドをもとに独自に調査

つまりアニメのキャラクターは、自己完結型で一過性の消費形態である「萌え」の対象ではなく、キャラクターと一緒に成長して応援し続ける「推し」の対象となったのだ。

そして、この推しを応援したいという大衆心理にも注目したい。

アメリカの心理学者マズローは人間の欲求を5段階に分離し、それをピラミッド型に切り分けた。上にいくほど高次元な欲求であることを示している。

最下層が「生理的欲求」で食事や睡眠だ。2階層目が良好な健康状態の維持など「安全の欲求」。3階層目が「社会的欲求」で、どこかに属している、他者に受け入れられることを求めるものだ。自分に何らかの役割があるという感覚への欲求で、推し活が正にこのカテゴリーに当てはまる。

推し活は決して高次元の欲求ではないために一般大衆化しやすく、定着もしやすいという。一過性の消費形態ではないという所以である。

ニッセイ基礎研究所は推し活のアンケート調査を行なっているが、推し活をしている人の年収はまちまちで大きな偏りは見られない(「推し活が映し出す、複層的な消費の姿~データで読み解く20代の消費行動」)。ここからも、一般大衆化している様子をうかがい知ることができる。