地味な配役でもヒットした異例の「名探偵コナン」

Snow Manの目黒蓮をアンバサダーに起用した大手メガネチェーン「Zoff」は、2025年7月にCMの放送を開始。7月の売上が前年同月の30%近い増加と、驚異的な集客力を見せつけた。CM放送前の6月は6%の増加だった。Zoffは8月の売上も20%以上増加していた。

2025年9月、平日の朝にもかかわらず、多くのファンが記念撮影していた「Zoffグランド東京渋谷店」の外観(撮影/集英社オンライン編集部)
2025年9月、平日の朝にもかかわらず、多くのファンが記念撮影していた「Zoffグランド東京渋谷店」の外観(撮影/集英社オンライン編集部)
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Zoffは男性客から女性客へとターゲットを移し、推し活消費を取り込んで客数の増加を図ったのだ。SNSでは複数のサングラスを購入したとの女性の投稿が散見される。「推しを応援する」という意識が働くため、同様の商品をいくつも購入するのは推し活消費の典型的なパターンだ。

2025年はそんな推し活消費の恩恵を受け、3年連続で映画の興行収入が100億円を突破したコンテンツも誕生した。爆発的な人気を誇る『名探偵コナン』だ。

このシリーズの劇場版は、もともと作中の人気キャラクターを起用して集客を図ってきた。潮目が変わったのは2018年公開の「ゼロの執行人」で、興行収入は91.8億円だった。前作は60億円台だったにもかかわらずだ。

「ゼロの執行人」は、キーパーソンである「安室透を100億の男に!」とファンたちがSNS上のハッシュタグで呼びかけるほど話題になり、繰り返し劇場を訪れるリピーターが続出した。『名探偵コナン』が推し活のトレンドと重なった瞬間だった。

2023年に公開したシリーズ26作目の「黒鉄の魚影(サブマリン)」は、人気キャラクターである灰原哀を主人公にしつつ、女性に圧倒的な人気を誇る安室と赤井秀一が脇を固めるというビジュアルで押し出した。安室と赤井が共演するのは2016年以来である。

結果としてこの映画は公開から24日間で興行収入103億円を突破した。

2024年に公開した「100万ドルの五稜星(みちしるべ)」は興行収入158億円を突破。怪盗キッドと服部平次というライバル同士のカップリング戦略が奏功したようだ。

キャラクターの妙で成功を重ねてきた『名探偵コナン』だが、2025年公開のシリーズ28作目「隻眼の残像(フラッシュバック)」は毛利小五郎と長野県警が中心となる地味な配役だった。しかし、興行収入は見事に100億円を突破したのである。

2025年4月公開の映画『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』の劇場ポスター(撮影/集英社オンライン編集部)
2025年4月公開の映画『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』の劇場ポスター(撮影/集英社オンライン編集部)

推し活消費が『名探偵コナン』の魅力を世の中に広め、一般大衆もその面白さに気づいて劇場に訪れたということだろう。このシリーズは推し活をエンジンにして、次の成長ステージに入ったのだ。推し活消費が行きつく未来を暗示しているようで興味深い。

近年、アニメ映画は推し活消費の最前線である。