ものまね芸人の哲学がぶつかる年1回の“ガチバトル”へ

日本テレビ側はコージー冨田、原口あきまさらが牽引して「しゃべりものまね」のブームをつくる一方で、四天王以降のフジテレビのものまね番組からはビジーフォーが卒業し、残留した清水アキラ、栗田貫一のほか、星奈々、布施辰徳、そして山口智充(ぐっさん)らが屋台骨を支えた。結果的に、フジのものまねは歌まねへと比重が傾いていったと言えるだろう。

実は、『ものまね王座決定戦』は2000年に一度打ち切りとなり、『爆笑そっくりものまね紅白歌合戦スペシャル』に吸収されている。その後、2012年から再び『ものまね王座決定戦』が復活し、現在のように“ガチバトル”として年末に年1回放送されるスタイルが定着した。

復活後は、ミラクルひかる、ビューティーこくぶ、エハラマサヒロらが活躍し、2014年末の『ものまね王座決定戦』には、コージー冨田や原口あきまさら日テレ系でおなじみの顔ぶれも特別出演し、長く続いた“局の壁”が緩んでいった。

集英社オンラインの取材でものまね界に起きた令和の変革について語るエハラマサヒロ(写真/平川友絵)
集英社オンラインの取材でものまね界に起きた令和の変革について語るエハラマサヒロ(写真/平川友絵)

雪解け後の流れを象徴するのが、2020年の松浦航大、2021年の荒牧陽子による“初出場優勝”だ。SNSでものまね動画が話題になっていた松浦航大、そして日テレ系ものまね番組を主戦場に圧倒的な歌唱力を誇った荒牧陽子の優勝は、ある意味で“黒船来襲”的なドラマがあった。

ボイストレーニングで喉仏の位置を調整したり、高音域も自在に操る彼らのパフォーマンスは、従来のものまね芸とは違った競技をしていると言えるレベルにまで達している。

番組名に「爆笑!」の文字が入っていることからもわかるように、かつては笑いが優位なものまねの時代があった。だからこそ、淡谷のり子から清水アキラへの「やればできるじゃない」というのやり取りが活きたのだろう。

しかし、テレビはいま空前のコンプラ時代。キンタロー。による高市早苗首相のものまねが炎上したように、過剰にパロディ化するネタは扱いが難しく、しばらくは歌まねの勢いは続いていきそうだ。

では、そんな現状を踏まえて、どのようなスタンスで、ものまね王座を視聴するとより楽しめるだろうか。近年、ものまね芸人が単独ライブを行なう機会が増し、それぞれが「自分のものまね観」と向き合う時間も増えたように思う。

ゆえに、年に一度の『ものまね王座決定戦』は、ものまね芸人たちが1年間で磨き上げてきた己のものまね哲学をぶつけ合う場所だといえる。