脳と腸は自律神経でつながっている

それでは、腸管神経系は、脳とどのようにつながっているのでしょうか。もしかしたら、「脳と腸をつなぐ回線」とでもいうべきものがあるのでしょうか。

結論から述べると、先述の腸管神経系の2つの神経叢の「筋層間神経叢」と「粘膜下神経叢」は、それぞれ自律神経系の交感神経や副交感神経(迷走神経。後述)によって、脳やせき髄とつながっています。脳とせき髄は「中枢神経」と呼ばれ、すべての神経を統合してコントロールする中心的な役割を果たしています。

先ほど、脳を企業でいう本社、腸やほかの臓器を支社にたとえました。すると、「自律神経系は本社(脳)と支社(腸)をつなぐ外線」「腸管神経系は支社(腸)内で通じる内線」のイメージになります。

わたしはこれらの回線をまとめて、「脳腸回線」と呼んでいます。次に、外線のつくりと役割、そして、内線と外線がどのようにつながっているのかを掘り下げていきます。

そのイメージを図3にまとめました。自律神経系は、「本社である脳」と「各支社の臓器」にある固定電話をつなぐ外線のようなものです。もし、この回線に異常が起きると、各支社(臓器)は本社(脳)と連絡が取れなくなり、混乱をまねくことになります。

たとえば連絡が取れなくなった支社(腸)は、働きが滞って便秘や下痢、おなかの痛みや張りといった症状が現れる可能性があるのです。

ここで、自律神経について簡潔に触れておきます。自律神経は心臓や血管、肺のほか、胃腸や膀胱などの全身の臓器を、脳・せき髄とつないでいます。

(図3) 交感神経と迷走神経(副交感神経)は、「外線」として脳と腸をつないでいます。一方、腸管神経系は、点線で示した「内線」で腸内をつないでいます。
(図3) 交感神経と迷走神経(副交感神経)は、「外線」として脳と腸をつないでいます。一方、腸管神経系は、点線で示した「内線」で腸内をつないでいます。

自律神経の役割はよく知られているように、血液の循環、心拍、血圧、呼吸、食べものの消化、瞳孔の開き具合、排便、排尿、発汗など基本的な生命活動を維持することです。これらの活動の多くは自分の意思とは関係なく自動的にコントロールされているため、「自律神経」と呼ばれています。

自律神経には大きく分けて「交感神経」と「副交感神経」の2種類があります。これらは脳やせき髄からの指令で、「アクセル」と「ブレーキ」のように働き、脳と体のバランスを調整しています。車を運転するときにアクセルとブレーキを使い分けるように、体の各臓器でこの2つの神経が協調して働いているのです。

たとえば、緊張や興奮したときは交感神経が働いて、心臓の拍動が速くなります。しかしそのままでは体に負担がかかるので、リラックスすると副交感神経が働いて、心拍数を正常な状態に戻します。血圧や体温も、この2つの神経が同じように作用し、健康な状態を保つように調整しています。

体の機能の多くは、交感神経がメインで働いているときに活発になり、副交感神経がメインのときには抑制されます。

ただし、消化や排便、排尿はその逆で、副交感神経がメインで働いているときに活発になります。つまり、緊張や興奮で交感神経が活発なときは消化、排便、排尿の機能は鈍くなり、休息時やリラックス時に副交感神経が優位になると働くようになっているのです。

仕事や何らかの作業に集中しているときや、急いでいるとき、興奮しているときはあまりトイレに行きたくならないでしょう。「便秘を予防するために、朝はゆっくりトイレタイムを設けましょう」「食事中と食後はゆったり気分で」などといわれるのは、副交感神経を活発にして、消化、排便、排尿を促そう、ということなのです。