「中国が介入した不正選挙だった」前大統領のウソでデモへ発展
その感情を刺激し火をつけたのが、昨年12月3日夜に戒厳令を敷こうとして失敗した当時の尹錫悦大統領だ。
「尹政権は2024年の総選挙で与党が大敗し、妻の金建希(キム・ゴンヒ)氏のスキャンダルもあってガタガタでした。そこで尹大統領は憲法を停止して野党指導者らを拘束し、独裁体制を敷く“セルフクーデター”を狙いましたが、国会の抵抗に軍部隊が理解を示したため不発に終わりました。
これで『内乱罪』で逮捕、起訴され大統領職も弾劾・罷免されたのですが、その過程で尹被告が、大敗した総選挙は『中国が介入した不正選挙だった』と言い始めたんです。
これは韓国で『極右』とみなされるYouTuberたちが一部で唱えていた陰謀論で、何の証拠もないデマだと当局も認めています。YouTubeにハマっていた尹被告もこれを信じたとみられていますが、この尹被告の言葉を聞いた支持者が『中国が韓国政治を乗っ取ろうとしている』と言い始め、それが嫌中デモに発展しました」(前出・韓国記者)
ビザ緩和前の9月には韓国政府の行政データを保管する「国家情報資源管理院」で火災が起き、サーバーが焼失して多くのデータが破損した。
この火事の原因を巡っても「入国管理システムをマヒさせて身元不明の中国人を入れるための準備だ」「不正選挙のデータを消した」「中国に特殊部隊が入って来る」とのデマが飛び交った。尹被告を今も支持する保守系政治家らがこうしたデマに乗った発信をしていると韓国メディアは伝えている。
なかにはこうした風潮に便乗して、日本人を相手にひと稼ぎをたくらむ動きも。
「日本人向けのYouTubeで偽情報を流したとして、韓国警察は『韓国人先生デボちゃん』と名乗る30代の韓国人YouTuberを電気通信基本法違反の疑いで取り調べたと11月24日に韓国メディアが報じています。
『韓国で下半身だけの遺体37体が見つかり、非公開の事件は150件に上る』との内容のデマを動画で拡散した容疑ですが、これらは中国人が殺人や臓器売買に関与して起きた事件だと主張する荒唐無稽な内容で、韓国の事情をよく知らない日本人を過激な主張で釣って閲覧数を上げようとしたとみられています」(韓国記者)
明洞で行なわれるデモの参加者は数百人規模にのぼる。「デモのせいで観光客が怯えて来なくなってしまう」と心配する明洞の商店主らは警察に取り締まりを求めている。ただ、一帯は集会を取り締まれる地域ではないとして警察は対応に苦慮していると伝えられている。
デモ参加者は中国国旗や習近平国家主席の顔を描いた横断幕をビリビリに破るパフォーマンスも展開している。中国との関係悪化を避けたい李在明(イ・ジェミョン)大統領は、「あれのどこが表現の自由なのか。騒乱だ」と激怒し、対策を取るよう指示した。
取り締まりのための制度改正も検討されているが、尹錫悦前大統領の支持者が中心のデモ隊は現政権を批判する材料として反中国感情を煽っている側面があるため、デモ規制が「政治的弾圧」との批判を招きかねず、すぐには問題が収まりそうにない情勢だ。
しかし、何があろうと誤情報の流布やヘイトスピーチは許されるものではない。一刻も早い収束を願いたい。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班













