勝守が蘇らせた闘志

悶々としていたある日、出張で京都に行き、立ち寄った神社で可愛らしい「勝守」を見つけた時、私はこれをレイカさんに送ってみようと思いつきました。弁護士としてではなく、共に闘う同志として、法律事務所の封筒ではなく、プライベートの封筒にお守りを入れ、「この勝守は弁護士としてではなくレイカさんの友人として贈ります。もう一度、立ち上がる気持ちはありますか?」という手紙と一緒に送りました。

写真はイメージです 写真/Shutterstock
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これは大きな賭けでした。「余計なことです」と拒否されて、溝が深まる可能性も大きいからです。こんなことをしたのは後にも先にもこの時だけです。加害者が処罰されないままでいる理不尽さへの憤りもありますが、何よりもレイカさんに後悔だけはしてほしくなかったのです。

手紙と勝守を受け取った彼女は、すぐに電話をくれました。「やります。もう一回お願いします」と。その時の彼女の目がカッと見開いて輝いていたと、傍にいたお母さんに言われたそうです。レイカさんの闘志に再び火がついたのです。

もちろん、私の心にも火がつきました。連絡をもらってすぐに、「先生、これ怖すぎる」とレイカさんが苦笑いするくらいの辛辣な抗議書を書き上げ、担当検事の上司に提出しました。そしてその翌日、検事から「オーナーを起訴する」との連絡があったのです。

このレイカさんのケースのように、検察官が「起訴しても、公判で有罪にできるかどうか危うい」と判断すると、易きに流れて不起訴としてしまうことが性犯罪ではよくあります。密室で行われることが多い性犯罪は、目撃者がいたり防犯カメラに犯行状況が映っていたりすることが少なく、その場合は加害者の自白や被害者の証言が頼りとなります。

ところが、捜査段階で容疑を認めていた加害者が公判では起訴事実を否認することもままあるため、検察官が起訴することに二の足を踏むのです。こうしてなかったことのように扱われてしまった性犯罪はかなりの数に上ると思います。そしてその分、被害者が悲痛な思いを抱えて生きていかねばならないのです。

とはいえ、レイカさんの事件を担当した検察官のような人ばかりではありません。犯罪を行った者をしっかりと処罰するべく働く検察官と、被害者を守り、その被害を回復させるために働く代理人は、本来、協力関係にあるのです。この時は私も検察にかみつく感じとなりましたが、多くの事件では、情報交換したり、まだ捜査機関が知らない情報を提供したりして、加害者に罪を償わせるために協力し合っています。