池袋暴走事故裁判で法的責任を否定する被告に被害者が質問「法廷で被害者が被告人質問をするかどうかはその方が決めること。その機会を弁護士は絶対に潰してはならない」
思いがけず犯罪に巻き込まれたとき、被害者側に立って司法手続きやマスコミ対応をする弁護士が「犯罪被害者代理人」である。性犯罪、交通事故、殺人など、さまざまな事件の被害者を支援しているのが弁護士の上谷さくら氏。2019年に起きた池袋暴走事故においては、被害者家族・松永拓也さんとともに、加害者である飯塚被告(当時)の裁判に臨んだ。
氏の著書『犯罪被害者代理人』より一部を抜粋し、法廷で交わされる加害者と被害者家族のやり取りを紹介する。
犯罪被害者代理人 #1
後の被害回復のために
それでも今、当時を振り返り、「あの時、聞きたかったことを全て、自分で直接聞けて本当によかった」「被告人質問を自分でしていなかったら、取り返しのつかない後悔や自責の念にかられたと思う」と話してくれます。その時は辛くても、後の被害回復に繋がっていく。それが被害者参加制度の素晴らしさだと思います。
「法律の素人である被害者に被告人質問などさせるべきではない」「被害者参加人自らが被告人質問をするのは無理だ」と言って、やめさせようとする弁護士もいるようです。しかし、それは被害者参加の意義を正しく理解しておらず、被害者自身が持つパワーを軽視していると思います。もしくは、入念な準備が必要であることから、それが面倒なだけかもしれません。
東京地方裁判所 写真/Shutterstock
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被害者の方々は、事前に緊張し、「やっぱり無理かもしれません」と弱気になることもあります。それでもひとたび質問を始めると、堂々と見事にやってのけるのです。私は、「天から何かが降りてきている」と感じます。
弁護士と違って、被害者にとって自ら法廷で被告人に質問することは、一生に一度のことでしょう。しかも自分自身の事件です。一生分の力を注いでその場に挑むと言っても過言ではありません。
被害者参加人が被告人質問をするかどうかは、その方が自由に決めることです。「大変かもしれないけど、やってみたい」と思っているのに、その貴重な機会を弁護士が潰すようなことは、絶対にあってはならないと思っています。
2025年10月17日発売
1,100円(税込)
新書判/256ページ
ISBN: 978-4-08-721383-6
あなたを守ってくれる人を知っていますか?
日本では女性の12人に1人が性犯罪の被害者になり、一年間で350人に1人が交通事故により死傷している。
犯罪は、いつどこでも起こりうる。
思いがけず犯罪に巻き込まれた時、被害者側に立って司法手続きやマスコミ対応などに尽力する弁護士が「犯罪被害者代理人」だ。
性犯罪、交通事故、連続殺人など、さまざまな事件の被害者を支援している弁護士の著者が、日本ではあまり知られていないその仕事について実例とともに紹介。
被害者が直面する厳しい現実から、メディアの功罪、警察や司法の問題点にいたるまで解説する。
誰もが当事者になりうる現代における必携の一冊!
【目次】
序章
第一章 被害者代理人の仕事
第二章 心の被害回復を目指して――性犯罪被害者の代理人として
第三章 損害賠償・経済的支援――お金を受け取るのは当然の権利
第四章 メディアの功罪
第五章 家庭の中の犯罪被害――ドメスティックバイオレンス(DV)
第六章 代理人としての「資格」――共感力・想像力・提案力
第七章 立ち遅れる被害者支援と課題
終章