どうしても自分から聞きたい
質問事項を整理したあと、松永さんと高橋弁護士、私で被告人質問の練習をしました。質問の仕方にもお作法があり、被告人が端的に答えやすいように質問することが求められます。
例えば、「あなたは週に何回くらい運転していましたか?」という聞き方では、免許を取得したばかりの頃の話なのか、事故の頃のことなのかが分かりません。「この事故が起きる1か月前から事故までの間」など、時期を特定することが必要なのです。そういったことを確認しながら、質問内容を一つひとつ確定していきました。
そして、高橋弁護士と私で、被告人がどう答えるのかを「質問に真正面から答えた場合」「質問に対し、のらりくらりとかわす場合」「答えられない、答えたくない、などと繰り返す場合」などにパターン分けして回答し、それに対して松永さんがどう再質問するのかという練習もしました。
これは、裁判に慣れていない一般の方には相当に難しいことです。ですから、「予期しない答えの場合はそのまま次の質問に進み、あとで被害者参加弁護士から追加質問をする」というルールを決めました。後日、実際に検察官にもそのやりとりを聞いてもらい、了解を得ることができました。
これだけの労力がかかりますので、被害者参加人が被告人質問をすることに対してあまりいい顔をしない検察官もいます。自分で組み立てた立証方法を貫きたい、という気持ちも分かります。
しかし、被害者には「どうしても自分から被告人に聞いてみたい」という質問がある場合があり、この気持ちは最大限尊重されるべきだと思います。自ら質問することが被害回復にプラスになりますし、同じ内容でも、被害者やご遺族からの質問には嘘をつきにくいように感じるからです。その結果として、検察官の有罪立証にプラスになり、あとから感謝されることもあります。
この事件の検察官は、何よりも被害者の心情を第一に尊重してくれて、「これはダメ」と言われることは一切ありませんでした。そのような対応がどれほどご遺族の気持ちを救ったことでしょうか。松永さんら被害者参加人と検察官との間に信頼関係ができていたこともありますが、被害者参加弁護士としても、担当検察官には感謝しかありません。













