被告人からアクリル板越しにプロポーズ

原口さんが国選弁護人として、覚せい剤事件の裁判を担当していたときのこと。懲役1年の実刑が確定した被告人の男性とアクリル板越しに接見した際、突然こう告げられた。

「刑務所から出てきたら、先生…僕と結婚してください」

弁護士と被告人という禁断の愛、からのアクリル板越しのプロポーズ。まさにドラマのような展開だが、この被告人と原口さんが会ったのは、これがたったの2回目だったというから驚きだ。正直、このプロポーズを原口さんはどう思ったのか。

「最初は冗談かと思いましたよ。でも1番目の夫との結婚は、私からのプロポーズだったので、『あれ、私プロポーズされたの初めてかも…』って、後からじわじわとボディブローのように染みてきちゃったんです」

そこで拘置所にいる被告人に手紙を出した原口さん。

〈冗談だと思うけど、ちょっと言われてうれしかったです〉

すると、被告人から返ってきた手紙には、こう綴られていた。

〈冗談じゃないよ〉

そんな流れで、彼が刑務所にいった後も、文通で愛を深めていった。いったい刑期1年間で、どれくらい文通を交わしたのか。

「刑務所では受刑態度に応じて便数に制限があり、彼からは月4回程度でしたが、私からは無制限なのでほぼ毎日送っていました。職業柄、刑務所での生活は退屈だと知っていたので、日々の何気ない出来事から心情を、その都度書いて送ってましたね」

300通以上の文通を交わすなかで、彼のどんな人柄に惹かれていったのか。

「私自身、北海道という縁もゆかりもない土地で、一人孤独に働くなか、彼の手紙に書かれている〈頑張ってね〉という言葉にすごく励まされたんです。正直、刑務所ってタバコもお酒もNGで、味付けも薄味ばかりで刺激物を取らないんです。

早寝早起きでテレビもない。そんな超健康的な生活を送っていると、どんな人でも“聖人君子”“お坊さん”みたいになっちゃうんですよ」

そして“お坊さん”化した彼がついに出所の日を迎えることとなる。

当時、紋別市で弁護士として働き、被告人からプロポーズされた原口さん
当時、紋別市で弁護士として働き、被告人からプロポーズされた原口さん