大切なのは「どのタイミングで、何のために使うか」

ここでは正しい比喩の種類と用法を確認しましょう。まあ直喩とか隠喩とか、そんな用語を覚える必要はないと思いますが、こんな比喩の種類があるのか、というのは知っておいて損はないでしょう。大事なのはどのタイミングで、何のために使うかです。

•直喩 … 「たとえば」「ような」「みたいな」などを用いて、たとえであることを直接的に表現したもののこと。
例/馬のような顔だ。まるで悪魔みたいな男だ。

•隠喩 … 直喩の対比で、「まるで」 や「ような」を使わずにたとえる表現。
例/彼女は天使だ。社員は家族である。足が棒になる。

•換喩 … ある事物を表すのに、それと深い関係のある事物で置き換える比喩。
例/白バイに捕まった(白バイ=警察)。鍋を食べよう(鍋=鍋料理)。トイレしてくる(トイレ=排泄)。

•転喩 … 先行する物事をもって後続する物事を表す、または後続する物事をもって先行する物事を表す比喩。
例/ユニフォームを脱ぐ(=引退する)。身体はすでに冷たくなっていた(=死んでいた)。

ほかにも「提喩」「諷喩」「活喩(擬人法)」などもありますが、あまり知る意味があるようには思えません。興味がある方は調べてみてください。

繰り返しますが、大事なのはどのタイミングで、何のために使うか。ソフトバンクの孫正義さんは、こんな言葉を使ったそうです。「(ビジネスは航海のようなもの)近くを見るから船酔いする。100キロ先を見ていれば景色は絶対にぶれない。ビジョンがあれば、少々の嵐にもへこたれないものだ」。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
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ビジネスで比喩を使う場合は、このようにストーリーに組み込むと、より印象的な文章になると思います。

私が社長を務めるワン・パブリッシングでは、仲間が次のような表現をしてくれました。「会社のPLはお客様からの成績通知表だ」。PLというビジネス用語より「お客様から成績通知表」のほうが、全員がその意味をイメージできますし、新入社員にもダイレクトに伝わるでしょう。これが比喩の力なのです。

■まとめ
・皆がわかる比喩表現を使えば、文を短くでき、インパクトある文章を作れる。
・大切なのは「共有理解」と「新しさ」の両立で、手垢まみれの比喩はNG。
・ビジネスで比喩を使う場合は、ストーリーに組み込むと、印象的な文章になる。

文/松井謙介

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松井謙介 (著)
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