「内診台」も存在しない
また、日本の産婦人科の内診では、患者は「内診台」という独特の椅子に座らされる。最近は、椅子が上昇するのと同時に、自動的に大きく開脚させられる電動式タイプもある。この椅子を使うと、医師は身をかがめることなく患者の局部を診察できる。
内診台には、医師と患者が互いに顔を合わせずにすむ「カーテン」もついている。患者と医師のコミュニケーションよりも診察の効率性を重視した装置である。このような診察環境は、患者の心理的な負担を考慮するよりも医師の作業効率を優先する医療文化の表れと言えるだろう。
海外には内診台など存在しない。性器の視診や触診が必要な場合も、診察台に横たわり、医師とコミュニケーションをとりながら、軽く足を開く程度ですむ。カーテンも海外にはない習慣で、ある外国人の助産師は患者の顔色を診るのも医師の仕事ではないのかとあきれていた。
日本では他にも、出産時に全例に「会陰切開」をしたり、医師の都合で分娩のタイミングを決めたり、夫の出産立ち会いを断ったり、十分な説明もなく帝王切開に切り替えたり、産後の母子分離を慣例にしていたりと、理由のつかない「慣行」や「自院のルール」は枚挙にいとまがない。
人権教育や性教育を十分に受けていない日本の女性たちは、性的羞恥心や医師との力関係のために口を閉ざしがちである。それを考えれば、産科暴力の問題がもっと潜在している可能性がある。
産婦人科へのかかりにくさは以前から指摘されてきたが、なかなか改善していかない。私自身、若い頃に産婦人科の内診や乳房の検査を受けなればならない時には、「病院なんだから恥ずかしがることはない」と気を引き締め、心を無にして受けていたものだ。
医師によるセクハラも経験した。また、女性医師なら対応がよいとも限らない。ある女性医師は検診で、事前に声をかけることすらなく、電動椅子で開脚させられた私の腟内に無言で器具を入れてきた。人としての尊厳を守ろうという意識など微塵も感じられなかった。
海外の産婦人科でいかに患者にやさしい診療が行われているのかを知るにつれて、私は「嫌な思いを我慢する必要はない」と考えるようになった。「カーテンは、いりません」「内診は必要不可欠でなければしないでください」とはっきり言えるくらい信頼できる医師を見つけるのが一番だと思う。
医師と患者の両方から、「おかしい」と声が上がってくるような時代になってほしい。
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