島田叡知事についての認識は目からウロコでした
前川 この本は沖縄戦に関する歴史入門書の決定版だなと思います。沖縄戦に関わるあらゆる論点が網羅されていて、必要なことが全部書いてある。
私も沖縄戦についてはある程度の知識を持っていたつもりですが、この本を読んで、認識を改めた部分も相当あります。たとえば当時の沖縄県知事・島田叡(しまだ あきら)についての評価は、今まで言われているものと大分違いました。彼についてはドキュメンタリー映画も劇映画もできていて、「軍に抗って沖縄の住民を生き延びさせた」というイメージがあるけれども、そうじゃない、と。この島田知事に対する評価は、目からウロコでした。
しかし、それはそうでしょうね。権力側にいたわけだし、戦争遂行のために仕事をしたのは間違いないでしょうし。そして当時の日本軍が、守るべきものは国体であり天皇であり、「住民を守る軍隊」ではなかった。それに協力した県知事も決して住民を生かそうと努力したわけではなかったと。
もう1つはいわゆる集団自決についてです。歴史学の世界では「強制集団死」という言葉を使う人も多いと思いますが、この「強制集団死」という言葉にも、林さんは批判の目を向けておられる。単に「強制集団死」と言ってしまうと、内面化された皇国民意識みたいなものが説明し切れないということだと思うんですが、これもなるほどと思いました。
この辺は当時の学校教育との関係も十分あると思いますが、「集団自決」というのは、大日本帝国によって教え込まれた人たちが、追いやられたということだと思うんです。
この本の中にも「死なないで投降しよう」と言った人たちが出てきます。アメリカなどに移民して帰ってきた人たちが「米軍は投降した者を虐待したりしないから、白旗を掲げて投降しよう」と言った。これは当時の日本の教育を受けていない、あるいは軍の宣伝に毒されていない人たちだったから、まともな判断ができた。
もう1つは、日本の学校教育を受けていない、特に女性、お母さんたちが、一般には無学と言われているけれど、教育を受けていないがゆえに人間本来の「生きよう」とする気持ちが素直に出てきて、投降して生きられたという人が多いんじゃないか、と。これは教育のあり方を考える上で大きいと思いました。
あとは、軍隊の中にも、軍隊の統制が崩れたときに、「こんなところで死ぬんじゃない」と言う人たちが出てきた、と。「軍の統制が崩壊したときに本来の人間性が現れる」ということもあるんだなと思いました。