本書の企画のきっかけは朝鮮学校・高校無償化裁判
幼少期に満洲で敗戦を迎えたちばてつや、山田洋次の編には、大陸からの引き上げ体験とそこで知り合った中国人、朝鮮人との交流が、いかに自身の作品に色濃く反映されているかが、語られている。
また学生たちを平壌へ連れて行き、継続的に日朝スポーツ交流を続けている日体大の松浪健四郎理事長はこうこう述べている。
「本校はかつて、最も戦争に加担した大学です。そのことを知っているからこそ、なおさら『スポーツを基軸に国際平和に寄与』しなければいけない」
大学として担った過去の戦争加害の歴史に目を背けずに、例え政府に反対されても自覚的に民間外交を継続する覚悟があるという。
企画から本書の制作に関わった張慧純によれば、「本書の刊行のきっかけは、高校無償化裁判にあった」という。
2010年に始まった高校無償化制度はアメリカンスクールや中華学校など外国人学校の高校生も対象にした画期的なものであったが、朝鮮学校だけが排除された。朝鮮人生徒に対する明らかな民族差別に、249人の朝鮮学校生が国を相手取って提訴したが、15回の裁判の内、大阪地裁で一度勝訴した以外は、すべて敗訴した。
「そこで当時25歳の編集部員が、日本の人たちに登場してもらって朝高生や同胞に元気を与えようと創刊当初のインタビュー企画の復活を提案してくれました。
漫才師の村本大輔さんは、『今、在日の人たちは差別によって日本で見えない存在、透明人間にさせられている』と言われましたが、ここに登場する方々の日常には、自然と朝鮮人が登場するんです。それこそが、私たちが日本で生きている証なんです。インタビューをしたいとオファーをしたら、最年長の山田洋次監督はじめ、皆さん快諾して下さいました」
今、生活苦が外国人のせいにされ、その矛先が社会的権利弱者のマイノリティに向けられている。けれど映画監督もサッカー選手もプロレスラーも漫画家も作家も、18人が問わず語りに述べた言葉を吟味すると、「We are already living together. (僕らはすでに一緒に生きている)」にたどり着く。
落語の林家一門を支えてきた海老名香葉子さんは、自分の病気を見抜いてくれた在日の李医師を命の恩人と言って感謝を惜しまない。
「私の命の恩人は、同胞を守り、同胞を愛し、祖国のために尽くし、現在の日本国のためになりうることに尽くすという信念を持っておられた」
「私とコリアン」は「私と平和」、「私と歴史」とも読み込める。排外の毒をデトックスする一冊である。
文/木村元彦