朴智星がバイブルとするキングカズの言葉
猪木と同様に世界を知る三浦知良もまた本書の中で、「コリアンの選手に共通するのは、チームのために自分を犠牲にできること」と称賛を送り、在日の子どもたちに「サッカーを楽しむために全力を尽くしてほしい」とメッセージを送っている。
キング・カズと言えば、若き日の朴智星とのエピソードはあまりにも有名である。言わずと知れた朴智星はマンチェスターUで4度のプレミアリーグ優勝を経験し、アジア人として初めてチャンピオンズリーグの決勝でプレーした選手である。
その朴は、最初に入団した京都パープルサンガで出逢ったカズを人生の師として今も慕っている。その理由は朴がまだ新人の頃、慣れない日本の生活の中でカズに言われたアドバイスにある。
「いいかい智星、自国以外でサッカー選手として生き残るのは本当に困難だ。最後までサバイバルする選手に一番必要なものは何かわかるかい? 技術じゃない、そのクラスの選手の技術はみんな同じくらい高いからね。一番大切な事は、サッカーへの情熱、一途の献身、毎試合、今日死んでも悔いはないという思いで試合に望みサッカーに人生を賭ける選手だ」
「うまくは言えないけれど、これが俺のサッカー人生だ、智星が本当にサッカーを愛しているならとことんまで愛してやれ。智星のプレーで全然違う国の人々を熱狂させてあげるんだ、それは本当に素晴らしい経験なんだよ」
朴は、カズの言葉を日本に向けてのリップサービスではなく、母国韓国のメディアにも何度も伝えている。これらのアドバイスが、日本、オランダ、イングランドとキャリアを重ねていった朴の背中をその都度、押したことは想像に難くない。
国籍の枠を超え、違う国の人を感動させることの崇高さをコリアンの若い選手に説くカズの発信に比べて、日本国内のマジョリティに向けて票と歓心を得ようと発された「日本人ファースト」というスローガンの何と貧相なことか。
8月25日に高田純札幌医科大学名誉教授は、歌手の加藤登紀子が、出生地である中国黒竜江省ハルビンで“里帰りコンサート”を行ったとの記事を引用し、「加藤登紀子さんって チャイナ生まれだったんですね 反日行動 いろいろ不可解でしたが納得しました ただし国籍は日本 こころはチャイナ」とポストし、炎上した。
戦前のハルビンが日本の傀儡国家であった満洲国であったことを知らない人物が大学教授をしていることにも驚かされたが、そもそも生まれや国籍での差別などは論外である。