睡眠中「も」、老廃物は洗い流される

ところが脳にはリンパ管がない。そこで登場するのが、「グリンパティックシステム」だ。

「グリンパティック(glymphatic)」とは、グリア細胞(glia)+リンパ系(lymphatic)の造語だ。

脳や脊髄などの中枢神経系には実際に電気信号を発するニューロン細胞(神経細胞)があるが、「グリア細胞」とはそれ以外の細胞を指す。

写真はイメージです 写真/Shutterstock
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「脳の細胞=ニューロン」のイメージが強いが、実は7~9割はグリア細胞で、かなり簡略して説明すれば、ニューロンのアシスタントのような役割を果たしている。グリア細胞は電気信号を出すことはないものの、ニューロンが電気を出しやすい環境を整えたりして、脳の機能を調節したりする。

グリンパティックシステムの働きで、脳の表面から脳の深部へと脳脊髄液が流れ込み、脳の神経細胞(ニューロン)の間に溜まった老廃物をすみずみまできれいに洗い流す。

ノンレム睡眠中には、「神経細胞外空間」が約60%拡大するという動物実験がある。この空間は、脳神経細胞(ニューロン)やグリア細胞の隙間にある「水の通り道」だ。
「水の通り道」が広がれば広がるほど大量の脳脊髄液がスムーズに流れて、「掃除ができてスッキリ!」となる。

さらに「洗い流される脳の老廃物は、アミロイドβ・タウたんぱく質・活性酸素」と聞けば、ちょっと健康情報に関心がある人ならすぐピンとくるだろう。「認知症と老化の原因物質だ!」と。

こうして、「脳に溜まった認知症の原因物質を洗い流せるから、ノンレム睡眠は大事だ」という定説が完成する。

「水の通り道の拡大」は、確かにノンレム睡眠中に起こるが、正確にいうと「ノンレム睡眠中に『も』起こる」だ。なぜなら、覚醒時にも睡眠時にも、水の通り道の拡大は起きているのである。

不夜脳 脳がほしがる本当の休息
東島 威史
不夜脳 脳がほしがる本当の休息
2025/9/24
1,650 円(税込)
240ページ
ISBN: 978-4763142481

「寝ないと脳に悪い」は、ウソだった?
“脳の老廃物”は「起きていても」掃除できる――。
脳神経外科医による、「脳の休息」の常識を覆す1冊。


「健康な脳には睡眠が必要」と一般的に言われますが、
実は、睡眠と脳の活性化には明確な因果関係がないことが分かってきました。
「体の維持」には睡眠は重要ですが、
「脳の健康」には休息より“継続的な刺激”こそ重要――。

そう語る東島医師は、脳神経外科医として、
日々、人の「脳波」を見つつ、大学に研究員としての籍も置く医師。
臨床と研究との二足のわらじ生活のなかで
◎「脳の老廃物除去に必ずしも睡眠は必要なく」
◎「起きているときでも脳は老廃物を除去できる方法がある」
ことを見つけます。
24時間営業のコンビニが閉店せずとも清潔さを保つように、
人間の脳も「店を閉める」ことなく、老廃物は除去でき、機能を維持できるのです。

脳の老化に対抗するために重要なのは睡眠以上に、
「適切な刺激」を継続的に与えること。
では、その「適切な刺激」とは!?
まさに、脳への刺激と癒しについての最新知見を初めて語りつくします。

睡眠中も、脳は眠らない。
ゴミを掃除し、棚の在庫を補充し、明かりを灯し続ける――。
あなたのために24時間営業する「不夜脳」のために、
脳神経外科医が見つけた「本当に脳にいいこと」。

脳は、何歳からでも鍛えられるし、脳は年齢に負けない。
生活の質を上げ、仕事のパフォーマンスを上げる具体的な方法の数々が、
お読みいただく方にとって
あたらしい「刺激」となること請け合いです。

【目次より】
日々、脳と向き合う気鋭の脳神経外科医が初めて語る、
脳を活性化させる「刺激」と「癒し」の新常識!

◎「脳のために睡眠が必要」は本当か?
◎「眠り」の役割と「不夜脳」
◎脳の掃除は「寝ていないとき」でもできる
◎認知症と睡眠不足の「都市伝説」
◎脳は体を「寝かしつける」保育士
◎脳は刺激不足で老化する
◎たっぷり眠ると「集中力」が上がる本当の理由
◎「脳疲労」の正体はバランスの偏り
◎記憶に必要なのは「忘却の能力」のほうだった

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