脳は深い眠りの中でも静かに活動している

入眠から覚醒までの段階は次のようになる。

❶眠りに落ちると、人はまず浅く静かな「ノンレム睡眠」に入る。

❷眠りが少しずつ深くなり、安定する。

❸「深いノンレム睡眠(徐波睡眠)」へ移行する。ここで老廃物を洗い流したり、記憶の整理をしたりすると言われている。

❹深いノンレム睡眠(徐波睡眠)をしばらく続けると、脳が急に活発になり、「レム睡眠」に切り替わる。体は脱力しているものの、目覚めているかのように眼球がぴくぴく動き、脳波はθ波やα波で覚醒時に近い。夢を見やすく、感情や記憶の統合、創造的な発想の整理をしていると言われている。

❺ノンレム睡眠とレム睡眠は、90分ほどのサイクルで3~5回ほど繰り返される。起床時間に向かって、ノンレム睡眠の深さは少しずつ浅く、レム睡眠の時間は長くなっていく。

❻朝方、最後のレム睡眠のときに、目覚める。

睡眠についての記事で注目されるのが「ノンレム睡眠」だ。

入眠して最初に訪れる20分から40分くらいの眠りが「最も深いノンレム睡眠(徐波睡眠)」で、特に関心が集まっている。

写真はイメージです 写真/Shutterstock
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成長ホルモンが分泌され、グリンパティックシステムが盛んになることから、「美肌になり、代謝が進み、脳の老廃物が捨てられる、いいことずくめの睡眠のゴールデンタイム」などと言われる。

それについて異論はないが、脳神経の専門医としては、他にも注目したい点がある。

「最も深いノンレム睡眠(徐波睡眠)=脳にも体にもいい!」という説があまりにもパワフルゆえに独り歩きをしているが、注目すべきは「その間、脳に何が起こっているか」という点だ。

脳は睡眠全体はもちろんのこと、最も深いノンレム睡眠中(徐波睡眠)であっても、決して眠ってはいない。

脳波はゆっくり、だが大きく動いている。脳は、「いいことをたくさん起こすために」、静かに活動しているのだ。

脳波の動きを日々見ている身からすると、「これだけしっかり動いているのに、何もしていないはずがない」と実感する。

睡眠中の脳の働きの代表とされるのが、老廃物の除去だ。

生活していれば部屋が少しずつ散らかるように、脳にも体にも、常に老廃物が生じる。体の場合、細胞の間に溜まった水やたんぱく質などの老廃物はリンパ管で回収・運搬されて、代謝や排出を担当する肝臓・腎臓などの臓器に届けられる。