中央銀行への信認が少しずつ剥がれ落ちていく 

株高と金価格の上昇が止まらない。日経平均は連日の高値を追い史上最高値を更新し、金も史上最高を更新し続けている。だがそれは豊かさの象徴ではなく、むしろ金融資産が危うい瀬戸際にあることを示す危機のサインにほかならない。

世界中で有事のたびに買われる金がこれほど高騰するのは、通貨への信認が揺らいでいる裏返しであり、投資家が株や債券から退避している証左でもある。私はむしろ「資産バブル崩壊の前兆」と見ている。

思い出すのは33年前の平成バブル崩壊、そして16年前のリーマンショック。市場が高揚感に酔った直後に奈落へ突き落とされたあの悪夢である。今、同じ修羅場を目前にしているかのような強烈なデジャブを覚える。

「資産バブル崩壊の前兆」国際的投資家が警鐘…歴史的株高は「円安の虚像にすぎない」日銀の失態、必ず国民生活に跳ね返ってくる _1
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そんな中で日銀はやはり5会合連続で利上げを見送った。理由は明白だ。国債を膨大に抱え込み、利上げをすれば巨額の評価損が金融システムを揺るがすからである。

日本は「金利を上げられない国」だと市場に烙印を押されている。しかもFRBがせっかく利下げに踏み切ったのに、日銀が据え置きを続けたために金利差は埋まらず、円は安値圏に縛りつけられた。株高と金高の虚像の裏で、為替要因が庶民の生活をさらに圧迫している。

その上で打ち出したのがETFとJ-REITの売却である。だが植田総裁は会見で「単純に計算すれば100年以上かかる」と言い放った。そこにあったのは決意ではなく諦めと開き直りであり、後世に責任を丸投げする白旗だった。金融正常化を語りながら「自分の任期では無理」と宣言したに等しい。

さらに「市場に混乱を与えぬため少しずつ」と強調した背景には、株価暴落による大ブーイングを避けたい思惑が透けて見えた。だがそれは、政策の失敗を自ら認めるに等しい発言である。

簿価で37兆円、時価で70兆円ものETFを抱え、売却に100年かかるという滑稽な計算が飛び出した瞬間、株価は800円以上急落した。しかしすぐに値を戻した。「どうせ本気で売らない」と市場が見抜いたからだ。中央銀行への信認は、こうして少しずつ剥がれ落ちていく。

一方で庶民の生活は待ったなしだ。ここ3年間で値上げされた品目は累計5万超。卵も牛乳もパンもガソリンも電気もガスも、あらゆる生活必需品が高止まりし、千円を切るランチを探すのも一苦労である。そんな中で総裁が「物価下振れリスク」を口にする姿は、現場感覚からかけ離れたキテレツな響きにしか聞こえない。