バニークラブで働く看護師、介護士、保育士 

新聞やテレビは「家計金融資産が過去最高2,239兆円」と大見出しを打ち、政府は「NISAの成功」を誇示する。しかし金融資産ゼロ世帯や100万円以下の世帯は3割近くにのぼる。投資に回せる余裕のない層は取り残され、格差はむしろ拡大している。

二極化は単なる経済指標ではなく、社会の治安そのものを脅かす。生活に追い詰められた若者が「闇バイト」に手を出し、組織的な強盗や通り魔的な事件に加担する。明日の暮らしが見えない不安が、犯罪の入り口を広げている。資産バブル以上に国民生活を揺るがしているのだ。

私はその矛盾を真に目の当たりにした。久しぶりに付き合いで訪れた銀座八丁目ある老舗のバニークラブ。この店はアフターも同伴もノルマも一切なく、出勤も自由だ。だから学生やダブルワークのOLがアルバイト感覚で気軽に働いていた。

そうした仕組みの延長線上に、看護師や介護士、保育士という国家資格を持つ女性たちが副業として立っていた。本業の収入だけでは暮らしを維持できず、夜な夜な銀座でバニーの衣装に身を包む。親御さんが夢にも思わなかった光景に違いない。

「資産バブル崩壊の前兆」国際的投資家が警鐘…歴史的株高は「円安の虚像にすぎない」日銀の失態、必ず国民生活に跳ね返ってくる _2

さらに彼女たちは語った。職場の中には、ごく一部とはいえ短時間で効率的に稼げる風俗に流れる人もいると。使命感に突き動かされても、疲弊が極限に達すれば現実は容赦なく迫る。残された選択肢は限られ、生活を守るためにより稼げる方向へ傾かざるを得ない。

副業であるはずの夜の仕事が、いつの間にか本業へとすり替わっていく。こうして国家資格や免許は机の奥で眠り、人材は減る一方で資格だけが積み重なっていく。これが医療や福祉を静かに蝕んでいる現実だ。

政府はこれまで外国人看護師の受け入れで人手不足を補おうとした。しかし言葉や文化、習慣の壁、そして過酷な労働環境のため定着せず、かえって現場の負担を増やした。もちろん、少子高齢化が進む日本において受け容れる国際化は必須だ。だが数合わせの付け焼刃では本質に届かない。必要なのは「時間をかけた育成」である。

子どもの頃から日本の学校で学び、日本語で考え、日本の生活文化を身に刻む世代――移住者の二世・三世を含む若者が、同じ国家試験を受け、同じ現場で経験を積んで初めて本質的な担い手となる。

国際化を否定するのではない。本気で受け容れる覚悟があるなら、教育と制度設計を通じて「時間をかけて根づかせる」方向に舵を切るべきだ。短期の穴埋めではなく、長期の定着こそが社会を支える筋道である。