先見の明があった古田敦也に謝罪

振り返ってみると、私も「ホームラン野球」に納得がいかなかった1人です。長嶋監督時代の巨人は、FAなどでホームランバッターばかりを獲得していました。私自身も「そんなチームに負けてたまるか!」と懸命に戦っていました。しかしそんなヤクルトでも、今思えば巨人ほどではありませんが、クリーンアップには1発のあるバッターが揃っていました。

古田監督が就任し、外国人選手のアダム・リグスなど、1発のあるバッターを2番に起用しました。当時の私は「古田監督は巨人みたいな野球をしたいのかな?」と疑問に感じていました。これは私の想像ですが、巨人のように1発のある打者を揃えた打線を相手にマスクをかぶり配球する古田さんは、そういう打線の方が手ごわいと感じていたのでしょう。

古田さんは選手を兼任した監督だったため、緻密な野球を考える暇も余裕もなかったから、采配の負担が減る「1発野球」をするしかなかったと思っていました。

実際、どうなのか聞いていませんが、今の野球を振り返ってみると、「先見の明」がありすぎたのでしょう。当時はメジャーでも「2番最強説」はなかった時代です。当時は時代が古田さんの野球についていけなかったのだと思います。さすがです。私自身、疑問に思ってプレーしていたので、この場を借りて古田さんにお詫びしたいと思っています。

申し訳ありませんでした!

それともうひとつ、ホームランや長打力のある打者の絶対数も少なかったのだと思います。当時は日本人の長距離打者が少なくても、外国人選手は今よりもレベルが上でした。しかし見方を変えると、日本人投手のレベルが急速に上がり、外国人のバッターが昔ほど活躍できなくなっています。

これも「投高打低」を招いている要因のひとつになっているのでしょう。

3割打者がめっきり少なくなった近年のプロ野球界 写真/shutterstock
3割打者がめっきり少なくなった近年のプロ野球界 写真/shutterstock
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文/宮本慎也

『プロ視点の野球観戦術 戦略、攻撃、守備の新常識』(PHP研究所)
宮本慎也
『プロ視点の野球観戦術 戦略、攻撃、守備の新常識』(PHP研究所)
2025年8月13日
1,320円(税込)
208ページ
ISBN: 978-4569859712

著者は、通算2133安打・408犠打を記録し、10度のゴールデングラブ賞を受賞。堅実な守備と高い戦術理解度で長年チームを支え、WBC(2006)では世界一メンバー、2008年北京五輪では日本代表主将を務めた。現役引退後はNHKの野球解説者として活動しながら、学生野球の指導にも力を注いでいる。

こうした豊富な実績と経験に、現代のデータ分析を融合させ、本書では「戦略としての野球」に本格的に切り込む。著者は、個々のプレー技術を論じるだけではなく、チーム全体をどう設計し、どのような方針で試合に臨むかという“戦略”と、実際の試合中にどんな判断を下すかという“戦術”の両面を精緻に考察している。

たとえば、バントや打順の構成における旧来の常識は、もはや「思考停止」と言わざるを得ない。著者は、試合展開に応じたバントの是非、最強打者の打順の合理性、得点を奪うための起用と配置など、試合の局面ごとの具体的な戦術判断についても、理論と実例をもとに詳しく解説している。

そして、日本野球が世界と戦う上で進むべき方向性として、従来の「緻密な野球」ではなく、「パワーベースボール」をまずは志向すべきと説く。打力・身体能力を活かす選手育成、柔軟なポジション編成、徹底したデータ活用を通じて、国際舞台でも勝てる新たなチームづくりが求められている、と説く

技術論にとどまらず、大局的な戦略と実際の試合での戦術を見通す本書は、ファンのみならず、選手、指導者にとっても必読の内容である。「観戦力は戦術眼で磨かれる」――。データとプロの経験が導く「勝負の読み方」は、野球という競技の理解を一段と深めてくれるだろう。新たな観戦の地平を切り拓く、新時代の野球論の決定版である。

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