宮本慎也「プロで生き残るために仕方なくやっていた」送り“バント戦術”について自論…しない方が得点確率は上がるが、有効な試合も
今夏の甲子園大会では送りバントの数はここ15年間で最多となった。しかし、プロ野球解説者の宮本慎也氏は、今では送りバントをしない方が得点確率は上がると解説している。送りバントは本当に手堅い作戦なのか。
宮本慎也氏の最新刊『プロ視点の野球観戦術 戦略、攻撃、守備の新常識』より一部抜粋・再構成してお届けする。
プロ視点の野球観戦術#1
「送りバントをしていなかったら、もっと打てていたのに」に対して宮本の回答は?
確率からいうと、無死一塁からの送りバントは「手堅い作戦」ではないのです。しかし、時と場合によっては完全否定することもできないということが分かってもらえたと思います。
今夏の甲子園大会では送りバントの数はここ15年で最多となった 写真/PhotoAC
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個人的な「送りバント」の話をします。自慢するつもりはまったくないのですが、私は通算408犠打で歴代3位の“送りバント男”でした。1シーズン67犠打の日本記録も持っています。2000本安打を達成している選手の中で、300犠打以上している選手はいません。
テレビや雑誌、イベントなどで私を紹介する場面でも、犠打記録が披露されます。いわば送りバントは私の「代名詞」のようなものです。しかし正直に言うと「恥ずかしい」という気持ちになってしまうのです。
私の中で「送りバント」は、プロで生き残るために仕方なくやっていたものです。打てないから送りバントのサインを出されると思っていました。とはいえ、いい加減にやっていたわけではありません。生き残るために必死にやっていたことだけは付け加えておきます。
みんなからは「送りバントをしていなかったら、もっと打てていたのにな」と労われることもありますが、それは違うと思っています。当時、小技がうまくなければレギュラーにはなれなかったし、多くの試合には出られなかったでしょう。
野球教室などで子供たちに「宮本さんのようなプレーヤーになりたい」と言われることがあります。親御さんから聞いたのでしょうが、そんなときは「そんなスケールの小さなプレーヤーを目指すな。ホームランバッターを目指しなさい」と言い続けています。幼いときから自分の限界を決めていたら、もっと高いレベルの野球にはついていけなくなるからです。
送りバントはしない方がいい。送りバントは打てない選手がやるもの。こう言うと「お前が言うな!」という突っ込みがあるでしょう。そんな突っ込みは、この先も私が死ぬまで潔く、甘んじて受け止めようと思っています。
文/宮本慎也
『プロ視点の野球観戦術 戦略、攻撃、守備の新常識』(PHP研究所)
宮本慎也
2025年8月13日
1,320円(税込)
208ページ
ISBN: 978-4569859712
著者は、通算2133安打・408犠打を記録し、10度のゴールデングラブ賞を受賞。堅実な守備と高い戦術理解度で長年チームを支え、WBC(2006)では世界一メンバー、2008年北京五輪では日本代表主将を務めた。現役引退後はNHKの野球解説者として活動しながら、学生野球の指導にも力を注いでいる。
こうした豊富な実績と経験に、現代のデータ分析を融合させ、本書では「戦略としての野球」に本格的に切り込む。著者は、個々のプレー技術を論じるだけではなく、チーム全体をどう設計し、どのような方針で試合に臨むかという“戦略”と、実際の試合中にどんな判断を下すかという“戦術”の両面を精緻に考察している。
たとえば、バントや打順の構成における旧来の常識は、もはや「思考停止」と言わざるを得ない。著者は、試合展開に応じたバントの是非、最強打者の打順の合理性、得点を奪うための起用と配置など、試合の局面ごとの具体的な戦術判断についても、理論と実例をもとに詳しく解説している。
そして、日本野球が世界と戦う上で進むべき方向性として、従来の「緻密な野球」ではなく、「パワーベースボール」をまずは志向すべきと説く。打力・身体能力を活かす選手育成、柔軟なポジション編成、徹底したデータ活用を通じて、国際舞台でも勝てる新たなチームづくりが求められている、と説く
技術論にとどまらず、大局的な戦略と実際の試合での戦術を見通す本書は、ファンのみならず、選手、指導者にとっても必読の内容である。「観戦力は戦術眼で磨かれる」――。データとプロの経験が導く「勝負の読み方」は、野球という競技の理解を一段と深めてくれるだろう。新たな観戦の地平を切り拓く、新時代の野球論の決定版である。