落合博満もバレンティンも一塁が空いた状況を嫌がった
プロのピッチャーならば、どうしてもストライクゾーンで勝負したくない場合や、際どいところに投げて甘くなる確率がありそうな場合は、ボールゾーンにバッターが思わず手を出してしまうボールを投げればいいのです。プロというより、1軍のマウンドに上がるピッチャーであれば、それぐらいのことはできるレベルは持っていて当たり前だと思っています。
先ほど述べたように、特に強打者は一塁が空いている状況で臭いところを突いて勝負されるのは厄介だという話をしました。日本球界で三冠王を三度獲得した落合博満さんも、走者一塁から盗塁して一塁が空いた状況で勝負されるのを嫌がっていたと聞いています。ヤクルトで60ホーマーを記録したウラディミール・バレンティンも嫌がっていました。それだけ「歩かせてもいい」と開き直って投げてくるピッチャーは嫌なものなのです。
私なりに「それでも送りバントをした方がいい」という状況も考えてみました。
ひとつは、明らかにヒットも打てないし、四球も選べそうもないバッターに無死一塁で打席が回ってきたときです。セ・リーグはDH制がないため、絶対ではありませんが、投手に打席が回ってきたときなどは、送りバントをさせた方がいいと思います。
もうひとつは、僅差の得点差で試合終盤に無死一塁になったときです。このケースでは、守る側も極度のプレッシャーがかかります。当然、送りバントが成功すれば走者は得点圏に進みます。僅差の試合終盤ならば、そのプレッシャーは強く、得点が入らなくても「疲れさせる」というメリットがあります。
「そんなことでプロが疲れるの?」と言う人がいるでしょう。しかしこのような状況では、私でも自分のところに「打球が飛んでくるな」と思います。それが積み重なれば、疲労感はたまっていきます。長いペナントレースでは、蓄積疲労でケガをする確率が上がります。
特に効果があるのは、短期決戦です。日本シリーズだけでも疲れますが、クライマックスシリーズがあります。メジャーでも短期決戦のポストシーズンでは、送りバントや進塁打などの自己犠牲を伴う戦術が多くなります。「相手が嫌がることをしろ」というのは、勝つために必要です。