子供時代は旅ばかりの生活
モーツァルトは子供時代、ほとんど旅をして過ごしました。最初の大きな旅行は、7歳から10歳にかけてのパリとロンドンを回るものです。
モーツァルトが生まれた18世紀の中頃は、パリとロンドンがヨーロッパ最大の音楽都市として栄えていました。ロンドンでヘンデルが世界中から一流のオペラ歌手を集めて、数多くのオペラを上演していたのは、モーツァルトが生まれる少し前の話です。そのため父レオポルトが、二つの音楽都市を見せたいと思ったのは決して不思議ではありません。
旅の道中、一家は宮廷がある都を訪問し、そこで子供たちの腕前を披露して、代わりに気前のよい贈り物を受け取っていました。一泊する街では、教会のオルガンを演奏して、お金を得ていました。
このようにしてザルツブルクから、ミュンヘン、マインツ、アーヘン、ブリュッセルなどの都市を経てパリに到着し、ヴェルサイユ宮殿において、ルイ15世の前で演奏しています。
その後、訪れたロンドンでは、モーツァルトは重要な人物に出会います。
それは、バッハの末の息子である、ヨハン・クリスティアン・バッハです。ロンドンで活躍したことから「ロンドンのバッハ」として知られていますが、当時はオペラ作曲家として父親以上の名声を得ていました。
モーツァルトと言えば可憐で優雅な音楽をイメージする人も多いかもしれませんが、華やかな音楽は、少なからずヨハン・クリスティアンの影響を受けています。
旅ばかりをしていた幼いモーツァルトは、正規の教育を受けておらず、音楽を含めてその教育のほとんどが父レオポルトからのものでした。
ヨハン・クリスティアンがモーツァルトにレッスンをしたという記録はありませんが、二人は一緒に連弾をして音楽を楽しんだことが知られています。そうした意味では、ヨハン・クリスティアンは父親の次に師に近い存在と言えるかもしれません。
バロック音楽を代表するバッハと、古典派の音楽を代表するモーツァルトが直接会うことはありませんでしたが、ヨハン・クリスティアンがその二つの時代をきちんと橋渡ししているのです。