怪談の複雑化はリアリティの喪失を招く

一つのバリエーションが長年にわたり語られるうち、様々な変化を遂げて複雑化することは、都市伝説によくある傾向だ。

例えば口裂け女は1979年の大流行によって、三姉妹である、ものすごいスピードで走る、赤い服を着た大女であるといった怪物的要素が付与されていった。しかしこうした複雑化はリアリティの喪失を招き、子どもたちが真剣に語り合う状況を阻害する。79年の大流行の後、口裂け女の実在を真剣に語る子どもなどいなくなったではないか。

1979年の大流行した口裂け女の怪談。写真はイメージです(写真/Shutterstock)
1979年の大流行した口裂け女の怪談。写真はイメージです(写真/Shutterstock)

「カシマサンガヤッテクル」は、そうした末期症状をよく表している物語だ。2001年1月号の雑誌掲載なので採話されたのはおそらく2000年あたりで、そこが兵士型カシマの終末期だったのだろう。女性型カシマはいまだ細々と語り継がれているが、兵士型についてはここから現在にいたるまで、新しい事例を聞いたことがない。

これはニセ傷痍軍人たちの消失とも重なっている。いくらフェイクといえど、2000年代以降に戦傷病者が路上に立つという状況は、あまりにも信憑性に乏しい。

また90年代以降のホームレス排斥運動、祭り・縁日の業態変化なども影響しているだろう。21世紀から彼らの目撃例は激減し、現在にいたってはもはや根絶されたと考えてよい。

そして戦争にまつわる怪談を全般的に見渡しても、2000年を境に大きく減少している。それは学校の怪談に限らず、大人たちの語る都市伝説、あるいは実話怪談でも同様だ。

写真はイメージです(写真/Shutterstock)
写真はイメージです(写真/Shutterstock)

私の中心的活動である実話怪談を見渡しても、体験者が自身の不思議な体験を「戦死者」「戦災犠牲者」と結びつける事例は少ない。中河原海岸水難事故、沖縄市のテケテケ由来譚のように、かつて「戦争」は怪談の解釈コードの一端を担っていた。

多くの学校で「戦死者」「戦災犠牲者」の霊が出るといった怪談が語られていた。だが近年では、よほど明確な因果関係がない限り、戦争と怪談が結び付けられることはない。

こうした状況を暗示しているような、興味深い怪談がある。