学校関係者の意向は?
新宿区立西新宿小学校は、2023年に夏休みの宿題を廃止。加えて、定期テストなし、成績表なしの授業づくりに取り組んでいる。背景には、どのような意図があるのか。同小学校の校長に話を聞いた。
「夏休みの宿題廃止は、子どもたちの“主体性”を育てるために始めました。学校や大人から与えられてやるのではなく、自分から進んで取り組むことが大事だと考えています。絵画のコンクールなどの案内はしており、自由研究は出したい人だけが出します。昨年は3割前後が提出しました。
並行して、先生の成績表と定期テストもなくしましたが、授業のやり方などで変えたところはないですし、今のところ支障はありません。特段『夏休みの宿題を復活してほしい』という声もないので、引き続き宿題なしで様子を見ていきます。
副産物として、教員の仕事が減り、気持ちに余裕が出たことで子どもとより深く向き合うことができるようになったのは良かったと思います」
いち早く“夏休み宿題ゼロ”を取り入れた元校長の思いは?
自分で進んで取り組むのは学問に限らないとの考えもある。
愛知県内の公立小・中学校に38年間勤務し、数々の教員の働き方改革を担ってきた元“破天荒校長”の異名を持つ沢田二三夫氏。2018年、豊田市市木小学校でいち早く「夏休みの宿題ゼロ」に踏み切った人物だ。夏休みの宿題をなくした狙いを聞いた。
「答えのあるものを先生が教え、みんなに同じような力をつけさせる既存の教育では、現代社会を生き抜くことはできません。夏休みくらいは、与えられたことをやるのではなく、好きなことややりたいことを見つけ、自ら動いてほしかったんです。
価値観が多様化した今、子どもの持つ力を引き出し、自ら決定し行動する力を養うことが重要です」
子どもの力を引き出すために、この夏休みどのように過ごすことが好ましいのか。
「夏休みの旅行の計画を子どもに立てさせるのがオススメです。予算を決めて、行く場所や過ごし方、交通手段などを一任する。兄弟がいれば兄弟で話し合っても良いでしょう。日帰り旅行でも構いません。旅行に対して、普段は不平不満を言ったり、移動中ゲームばかりしていた子どもも、自分で計画を立てた旅行ならそうはなりにくいんです。
『もっとこうすれば楽しめたかも』と、そこで反省や失敗する機会を得られるのも良い経験です」
宿題がないことで、ゲーム三昧の夏休みに悩む保護者もいる。対処法を尋ねると沢田氏はこう述べた。
「大切なのは、いま目の前にいる子どもを認めてあげること。『ゲームやめなさい』よりも『ゲームは何時までやる予定なの?』と問いかけて、自分で決めて動くことを大切にしてほしい。
もしくはゲームを与えたのであれば、いっそのこと夏休みは徹底的にやらせてみるのもひとつの方法です。そこで『こんなにやったら目が疲れるな』と感じれば、自分で時間を制限するでしょうし、飽きれば他のことに目が向きます。
のめり込んでいくならば、ゲームの魅力を尋ねたり、ゲームでお金を稼ぐ方法を話し合ってみる。勝つ方法を探求するのも学びですよね」
夏休みの宿題ゼロに対し、学力低下などを心配する一部の保護者からは反対の声がある。沢田氏はそうした不安を理解したうえで、こうアドバイスする。
「子どもは本来、学ぶことが好きなのです。しかし、読書感想文を書くために無理矢理本を読まされ、読書が嫌いになる子どもがいるように、人から与えられた宿題が勉強嫌いにつながる可能性もあるんです。
せっかくの宿題ゼロの夏休み。好きなことを徹底的にやらせてみるのもひとつの手です。そこから学ぶ意欲につながる新しい発見があるかもしれませんよ」
宿題がない夢の夏休み、あなたならどう過ごす?
取材・文/山田千穂 集英社オンライン編集部ニュース班