クローズドで行われていた永田町の政治をオープンにする

――仮想的な熟議とはどのようなものですか?

作成途中のマニフェストにチャットで有権者が意見を伝えるシステムになっています。

例えば、私たちは教育分野で「AIをチューター(個人指導の教師)として使うことで教育の効率を上げます」と訴えています。これを見た人の中には「AIを子どもに使うなんてよくない」と考える人もいるでしょう。その意見をチャット欄に書いてもらいます。

するとAIは「具体的にどういう点が良くないとお考えですか」と打ち返します。これに提案者は「AIを子どもたちに使わせると思考能力が奪われるとニュースで見た」と回答するとしましょう。

これを受けたAIは、「生徒がAIに思考を丸投げする可能性があるがゆえに、答えは教えず、生徒が行き詰まっている部分だけを教えていきます」「懸念は和らぎましたか、それとも不十分ですか。具体的にどういう対策があれば安心できるか考えていきたいです」などと答えます。

チームみらい・安野貴博党首(34)を直撃「テクノロジーで誰も取り残さない日本…って高齢者やIT弱者はどうするの?」「参院選の結果はAIはどう予測してますか?」 _3

――まずAIと議論してもらうわけですか。

こうしたラリーを繰り返すことで双方にとって問題点が具体的に絞られ、新しい情報も得られる。そしてある程度議論が尽くされると「改善提案書を作りませんか」とAI側が提案してきます。提案者の意見が最後まで変わらず、指摘した政策そのものを削除すべきだとの提案書になることもあります。

この改善提案書の形にまでまとまったものが、マニフェストの超初期版「ver.0.1」の発表からすでに2570件を超えており、これらはオープンに誰でも見ることができます。

こうして揉まれた提案を最終的に私たちや党のスタッフが、マニフェストに取り入れるかどうかを判断し、バージョンアップを繰り返していきます。

「チームみらい マニフェスト ver.0.1 (超初期版)」(https://policy.team-mir.ai/view/README.mdより)
「チームみらい マニフェスト ver.0.1 (超初期版)」(https://policy.team-mir.ai/view/README.mdより)

そして、「チームみらい」がこれらの提案のどれを採り入れ、どれを採り入れなかったのかもすべてログで残り公開されるため、結果として既存政党よりもはるかに透明性が高い形で政党の考え方がデータとして残っていくわけです。

これまで政党の公約への意見募集というのは、最初に示した公約案に有権者がどのような提案をし、それがどのように採用されたのか、されなかったのかもわからないものでしたから。

――透明性を維持してつくった公約だから説得力を持つという考えですね。

かなり正しい理解です。今までの政党の政策形成過程はかなりブラックボックスになっていたと思います。業界団体のロビー活動や陳情は一概に悪いとは思いませんが、他の人には誰がどういう陳情や提案をし、それがどのように反映されたのかはまったく分からないですよね。

われわれはクローズドで行われていた永田町の政治に対して、こういった仕組みでオープンな新しいプロセスを打ち立てることができるんじゃないか、そして業界団体の方しか向いていないんじゃないかと疑われるブラックボックスだから起きる問題を、一定程度解決できるんじゃないかと思っています。

チームみらい・安野貴博党首(34)を直撃「テクノロジーで誰も取り残さない日本…って高齢者やIT弱者はどうするの?」「参院選の結果はAIはどう予測してますか?」 _5
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――「テクノロジーで誰も取り残さない日本へ」と掲げていますが、高齢者やテクノロジーに弱い人はチャットでの意見表明もできないんじゃないですか?

ITはパソコンの中身を知れば知るほど強くなる、知らないと使えない技術なんですけど、AIは人間に話すのと同じように使うことができます。なので、むしろAIが進化していくとご高齢の方でも若者が享受していた便利さを享受できるようになります。電話で

「AI安野」に意見を言ったり質問ができたりする仕組みも都知事選で採り入れていました。

オフラインのコミュニケーションを軽視しているのではありませんが、いっぽうで、陳情する時間もない現役世代の中にも取りこぼされてきた意見が大量にあると思っています。なるべく多くの人が参加できる仕組みづくりをするという意味では、24時間可能なAIとの議論が間接的にわれわれに届くことは有意義だと思っています。

〈後編(#2)につづく『「デジタル時代の当たり前を政治の世界でも」チームみらい・安野貴博党首(34)はどんな子どもだったのか? モテましたか?』〉

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班 撮影/村上庄吾