最近増えている、作品を批判するときに「共感できない」「エンパワーされない」と表現する人に言いたいこと 山内マリコ×吉田恵里香_3

吉田 世の中には、エンターテインメントを慈善活動みたいに思っている人もいて、『虎に翼』のシナリオ集を出したときも、「朝ドラを金もうけに使うな」って言われたんですよ。私はお金を稼ぐための生業として朝ドラの脚本を書いているのに(笑)。

たぶん、私が得している気配を感じると怒りが湧くんでしょうが、作品にこめたメッセージと私個人が日々主張したいことが必ずしも同一とは限らないし、私自身が正義で正解だとも思っていない。

ただ、物語を通じて、今、現実で起きている問題を私たちはどうとらえるべきなのか、どう向き合えばいいのかを、角度を変えながら探っていきたいです。

山内 社会問題をあまり取り込みすぎるとお説教になってしまうこともあって、さじ加減が難しいですよね。伝えたいことが山盛りすぎて全部のせすると、トゥーマッチになってしまう。面白さをキープしつつ問題提起もして……となると、それはそれで、モニターの意見を吸い上げて作った工業製品のような作品になってしまうし。

吉田 最近、作品を批判するときに「共感できない」と言う人が増えているように感じるのですが、同じように「エンパワーされない」と表現している人もちらほら見かけて。でもそれって、自分が気に食わなかっただけのことを、もっともらしく言い換えているだけなんじゃないかと思うんですよね。

共感もエンパワメントも本来は勝手に受け取るものであって、望むようにそれが描かれていないからといって、作品を断罪する武器のように扱うのはちょっと悲しいなと。100%の共感やエンパワメントがなくても作品を楽しむことはできるし、問題について一緒に考えることもできるはずなので。

山内 エンパワメントを尺度にされると厳しいですね(笑)。おっしゃる通り、受け取る側の感受性次第なので。作品が〝ノット・フォー・ミー〟であることと、正当な批評の線引きは難しいです。いろんなリアクションがありますが、作品は読者に届いてこそ。

先日、還暦を迎えるという女性が『一心同体だった』の熱烈な感想を語ってくれて、胸がいっぱいになりました。作品を書く側としては、ひたすら球を投げ続けるしかない。どう受け取られてもいちいち反論も言い訳もできない。

けど、時々そんなふうに、メッセージがストレートに伝わったことを実感できることもあって。シスターフッドやフェミニズムを必要とされている方に、ちゃんと届いた、自分はそれに貢献できたんだと思うと、やってきてよかったなぁとしみじみ思います。人によっては食傷気味かもしれませんが、手を替え品を替え、このテーマを書き続けますよ。

最近増えている、作品を批判するときに「共感できない」「エンパワーされない」と表現する人に言いたいこと 山内マリコ×吉田恵里香_4
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構成/立花もも 撮影/大槻志穂
(『すばる』2025年6月号より)

すばる 2025年6月号
すばる編集
すばる 2025年6月号
2025/5/2
1,100円(税込)
166ページ
ISBN: -

【連載】
桐野夏生「聞こえたり聞こえなかったり」(4)

【小説】
上田岳弘「マンサ・ムーサ」

【小説短期集中掲載】
遠野遥「吸血鬼」(2)

【対談】
山内マリコ×吉田恵里香「シスターフッドのその先へ」

【特集:ハン・ガン 死と再生の文学】
斎藤真理子「「ごはん」から見えてくるハン・ガンの文学世界」
川村湊「漢江に注ぐ水流――ハン・ガンと「四・三事件」」
金ヨンロン「私はそれを見たいだろうか――ハン・ガン『別れを告げない』を読む」

【第十回渡辺淳一文学賞発表】
木下昌輝『愚道一休』

【第四十回詩歌文学館賞発表】
詩部門/中尾太一『フロム・ティンバーランド』
短歌部門/中根誠『鳥の声』
俳句部門/中村和弘『荊棘』

【連載】
山内マリコ、池澤夏樹、小川洋子、金原ひとみ、高山羽根子、松田青子、滝口悠生、鏡リュウジ×東畑開人、角幡唯介、赤坂憲雄、姜尚中、岸本佐知子×杉田比呂美、村井理子、渡邉裕規、岡野大嗣、安達茉莉子、小津夜景、高羽彩、朝吹真理子、辻山良雄、エリザベス・コール

【プレイヤード】
演劇、美術、映画、待川匙「読書日録」、本

【日日是好日】
鈴木ジェロニモ(3)

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