吉田 世の中には、エンターテインメントを慈善活動みたいに思っている人もいて、『虎に翼』のシナリオ集を出したときも、「朝ドラを金もうけに使うな」って言われたんですよ。私はお金を稼ぐための生業として朝ドラの脚本を書いているのに(笑)。
たぶん、私が得している気配を感じると怒りが湧くんでしょうが、作品にこめたメッセージと私個人が日々主張したいことが必ずしも同一とは限らないし、私自身が正義で正解だとも思っていない。
ただ、物語を通じて、今、現実で起きている問題を私たちはどうとらえるべきなのか、どう向き合えばいいのかを、角度を変えながら探っていきたいです。
山内 社会問題をあまり取り込みすぎるとお説教になってしまうこともあって、さじ加減が難しいですよね。伝えたいことが山盛りすぎて全部のせすると、トゥーマッチになってしまう。面白さをキープしつつ問題提起もして……となると、それはそれで、モニターの意見を吸い上げて作った工業製品のような作品になってしまうし。
吉田 最近、作品を批判するときに「共感できない」と言う人が増えているように感じるのですが、同じように「エンパワーされない」と表現している人もちらほら見かけて。でもそれって、自分が気に食わなかっただけのことを、もっともらしく言い換えているだけなんじゃないかと思うんですよね。
共感もエンパワメントも本来は勝手に受け取るものであって、望むようにそれが描かれていないからといって、作品を断罪する武器のように扱うのはちょっと悲しいなと。100%の共感やエンパワメントがなくても作品を楽しむことはできるし、問題について一緒に考えることもできるはずなので。
山内 エンパワメントを尺度にされると厳しいですね(笑)。おっしゃる通り、受け取る側の感受性次第なので。作品が〝ノット・フォー・ミー〟であることと、正当な批評の線引きは難しいです。いろんなリアクションがありますが、作品は読者に届いてこそ。
先日、還暦を迎えるという女性が『一心同体だった』の熱烈な感想を語ってくれて、胸がいっぱいになりました。作品を書く側としては、ひたすら球を投げ続けるしかない。どう受け取られてもいちいち反論も言い訳もできない。
けど、時々そんなふうに、メッセージがストレートに伝わったことを実感できることもあって。シスターフッドやフェミニズムを必要とされている方に、ちゃんと届いた、自分はそれに貢献できたんだと思うと、やってきてよかったなぁとしみじみ思います。人によっては食傷気味かもしれませんが、手を替え品を替え、このテーマを書き続けますよ。
構成/立花もも 撮影/大槻志穂
(『すばる』2025年6月号より)