
(右)荒木健太郎 雲研究者・気象庁気象研究所主任研究官・博士(学術)。防災・減災のために、気象災害をもたらす雲のしくみの研究に取り組んでいる。主な著書に『すごすぎる天気の図鑑』シリーズ(KADOKAWA)、『雲を愛する技術』(光文社新書)などがある
どのように防災情報を使ってもらうか
長谷川直之(以下、長谷川) 荒木さんの著書で私が最近読んだのは、『雲を愛する技術』(光文社新書)です。本当に「雲」のことが好きで好きでたまらない様子がよく伝わってきました。
荒木健太郎(以下、荒木) 恐縮です。
長谷川 より多くの人に雲を好きになってほしいという気持ちを感じさせるとともに、防災にも触れられているのが素晴らしいですよね。つまり、「雲ってきれいでしょ?」「面白いでしょ?」と関心を引きつけながら、防災の大切さを伝えるというアプローチもされている。
荒木 ありがとうございます。書籍もそうですが、SNSなどのツールを用いながら、自分なりに雲の魅力と防災をセットでお伝えするよう意識しています。
長谷川 荒木さんのSNSでの発信は、気象庁の職員にもよく知られていると思います。SNSを上手に活かして、防災について情報発信をしているというのはありがたいことです。
荒木 長谷川さんの新刊、『天気予報はなぜ当たるようになったのか』(集英社インターナショナル)を拝読しました。私は日頃、気象の実態解明の研究に取り組んでいます。そうした研究を通じて、防災情報の高度化に貢献したいと思っているんですが、やはり一般の方にどのように情報を使ってもらうのか、それが重要だと、この本を拝読してあらためて感じました。
長谷川 ありがとうございます。
荒木 過去に、ある自治体で教育委員会や中学生を対象に講演させてもらったのですが、講演後にその地域が水害に見舞われて浸水したことがありました。「災害はどこでも起こり得るから、ハザードマップや気象情報をうまく使ってくださいね」といつも講演などでは伝えるのですが、話を聞いた皆さんは、その直後こそ防災の意識が高まっても、日常的にそれを維持してもらうのはすごく難しいことなんですよね。
長谷川 わかります。われわれとしては、いろいろな手段で警鐘を鳴らし続けるしかありません。こうして本やSNSなどで発信を続けるのも、その一環ですよね。荒木さんの最新刊『すごすぎる天気の図鑑 防災の超図鑑』(KADOKAWA)は、まさにそのあたりに詳しく踏み込んでおられました。
荒木 もともと、防災というテーマをやりたいと思っていたんです。以前は気象庁でまとめられた資料を使って発信していたのですが、多種多様な災害や被災がある中で、なかなかそれぞれの場面ごとに適した素材がないのがネックでした。
そこで五年前から防災や災害情報の専門家有志が集まって、「SNSでつながる防災アクションガイド」という画像を交えた素材を作り始めました。『防災の超図鑑』では、それらを一部参考にしながら、具体的な災害への備え方をまとめています。
長谷川 なるほど。復旧や物資、避難所でのことまで解説されていて、著書を読みながら「気象庁の人がここまでやるのか」と感心させられたんです。多くの専門家の知見が基になっていると聞いて、合点がいきました。
荒木 私自身は防災の専門家ではないので、いろんな識者の方のご意見を聞きながらやっています。