脳は「覚える」より「忘れる」ほうが苦手
なぜ特定の人が私たちの脳に強く刻み込まれてしまうのか。まずは具体的な事例からそのメカニズムを理解していきましょう。
新入社員の山田さんは、入社して3か月になりますが、まだ部署の雰囲気に馴染めていません。特に気になるのは、課長との関係です。
先日の週例ミーティングで、彼女の作った資料の説明部分が少しわかりにくかったため、課長は穏やかな口調で、
「もう少し丁寧に説明したほうがいいかもしれませんね」
と助言をしてくれました。決して厳しい指摘ではなく、むしろ課長の優しさを感じたほどでした。
ところがそれ以来、山田さんは廊下で課長とすれ違うたびに、あのときの課長の表情と言葉が鮮明に蘇ってきます。「もっと違う説明の仕方をすれば良かった」「課長は私のことをどう思っているんだろう……」と考え始めると、夜も眠れなくなるほどです。
実はこれは、私たちの脳が持つ重要な特徴を表しています。
脳は「覚えている」ことより、「忘れる」ことのほうが苦手なのです。