平安時代、女は愛人を何人つくっても良かった

佐藤 『家父長制の起源』の著者であるアンジェラ・サイニーは、イギリスの科学ジャーナリストです。なので、自分自身で研究するのではなくて、いろんな専門家のところに足を運んで話を聞いていきます。

もちろん前提として、膨大な文献を読んでいます。下調べをしたうえで、最新の成果を持っている考古学者や人類学者、霊長類学者など、さまざまな人たちに話を聞きに行っている。このスタイルがすごく生きた本だなという風に思いました。

社会学者の上野千鶴子 撮影/後藤さくら
社会学者の上野千鶴子 撮影/後藤さくら
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上野 科学ジャーナリストとは何か。簡単に言えば立花隆さんのような人です。立花隆さんって「知の巨人」とか言われたけど、彼自身は研究者じゃありません。膨大な情報を集めて、それをどの専門家にもできないような仕方で、網羅的にわかりやすく提示してくれた。

これって、やっぱり大切な役目ですよ。専門的な研究者と一般の人たちをつなぐための、かなめの位置にある大切な仕事なので。こういう人が本を書くっていうのは、意義のあることです。

佐藤 だからこそ寂しいのが、いま日本でそれに類する方はどなたになるのかな、ということです。サイニーのようなフェミスト・サイエンス・ジャーナリストが日本でも出てきてくれたら、すごく嬉しいですね。

上野 日本ではポピュラーカルチャーがある種の役目を果たしているように思いますよ。
例えば平安朝。この時代を扱ったドラマや漫画、動画は沢山ある。いろいろな形で、「えっ、平安朝って今の日本と結婚の仕方が全然違うし、夫婦同姓なんて全然なかったんだ!」と学ぶことができる。「女は愛人を何人つくっても良いんだ!」とかね。最高じゃん(笑)。

そういう知識が、漫画などのポピュラーな媒体でちゃんと広まっているから、一種の役割を果たしているんだと思います。

作者たちは、情報は専門家から得ている。例えば双系制とか、妻問婚(注:夫が妻のもとに通う婚姻形態)とか。そういうのは彼女たちが自分で発見した情報じゃないけれども、歴史家に学んでいるわけですから。