住宅のファスト化の10の要因
太平洋戦争からの復興期の簡素な住宅や高度成長期の粗製乱造の住宅は、現在の建築基準に満たないものも多く、その耐震性、断熱性、素材の物理的劣化などもあり、資産評価も不可能どころかゼロ、もしくは解体費用分がマイナスと評価されるものもある。
そのため、既存住宅の中古市場も、ストック活用もまったく進まないのが実情だ。
また、その時代の住宅には素材にも難点がある。
林業の衰退時期とも重なり、耐久性の低い外材や接着強度を失ってしまう合板などが使われており、経年変化が単に傷みとして見えてくるだけの新建材などで建てられているため、構成部材の物としての価値も薄く、廃棄物にしかならないのである。
また、初期のアルミサッシは耐候性にも乏しく、窓や扉のアルミ材も腐食が進んでいることもある。当時の新建材には、耐久年数を推し量るような考えも、制度もなかったこともあるだろう。
その一方、数少なくなった稀少な戦前の古民家、町屋などの100年以上も経過した住宅が、今では入手不可能な大断面の梁や柱、稀少な銘木などを用いて造られた内装や造作の意匠的価値を見出し、その取得を熱望する若い世代や、商業利活用している世代が出始めているとは皮肉なことである。
結局、100年以上を経過しても残っていた古い建物のほうが、次の100年にも耐えうる素材の意匠性も構造強度をも持ち得ていたというわけである。
しかしながら、建築基準法などの法整備がおこなわれる前の建物では、耐震構造技術や解析や構造計算に基づいていないため、現代の基準に合わない伝統的な木組みや大工技術によっており、実際に長期の経年を経ても立派に残っているにもかかわらず、新しい時代の基準である建築物の耐震安全性や省エネ性が担保されず、その建物価値の裏付けが取れないままなのである。
こうした、戦前の建物を現代の技術で現代の法的基準に適合可能にする制度整備が早急に必要になってくるのである。
まとめると、我が国の住宅建築におけるファスト化に至る経緯と要因は次のようになる。
太平洋戦争によって日本各地が戦火に見舞われたことにより、
1.まずは質より量が優先されてしまった
2.戦後の経済政策として持ち家を建てることが推奨された
3.高度成長期から続く首都圏への一極集中による地価の高騰
4.地価の高騰による住宅地の持続性の喪失
5.バブル期の地上げによる廉価な賃貸住宅の喪失
6.失われた30年による住宅市場の低迷
7.金融商品としての住宅投資
8.少子高齢化による職人不足と建設費高騰
9.建材と工法の工業化と規格化
10.既存ストック活用に対する法整備の不足
……と定義できるだろう。
戦後から高度成長期を通じて造られてきた多くの団地やニュータウンも現在はすっかり老朽化しており、少子高齢化による人口減少も相まってゴーストタウン化や空き家問題も取り沙汰されている。
実は、住宅過多なのである。
にもかかわらず、戦後から高度経済成長期に推奨された新築住宅を促す政策は未だに継続されており、相変わらず住宅建築の量を増やすことを続けていることが、住宅のファスト化をさらに推し進めているといえるだろう。
今、必要なことは、これまでのようなスクラップアンドビルドから、ファスト化の対極にある古くからある家の素材や意匠の価値に気付き、住宅文化の遺産として使い続けていくという、価値観の転換が必須といえよう。
現在の技術をもってすれば、数百年前の古民家すら現代の居住機能の要求水準への再生は可能なのだから。
文/森山高至 サムネイル/Shutterstock