国民民主党の激甘な審査と、現状認識
しかし、そんな書面で有権者が抱いた不信感は払拭できるのか。
気になるのは「科学的根拠と事実に基づく観点」という言葉だ。ワクチン反対派の勢力も、“彼らなりの科学と事実”に基づいて「ワクチンはダメ」との主張を続けているわけで、須藤氏が「これが科学であり事実だ」と信じていれば、どんな誤った情報でも採用することは理論上可能になる。
「命に関わる政策分野においてはその観点を特に重視する」の文言も、「ワクチン接種で亡くなった人がいるのだから接種を中止しろ」のような主張は成り立つ。つまり須藤氏にしてみれば、これまでの言動を変えなくてもいい。どうとでも解釈でき、あとで言い訳ができるのだ。
前述の釈明投稿で須藤氏は、「ワクチンなどの医療分野について 『副反応への懸念』を発言していましたが、ワクチンの重症化予防効果等を含めて科学的根拠を否定する立場ではありません」としており、「考えを改める」とまでは言っていない。いわゆる過去の自分の主張は「反ワクチン」ではないとのごまかしで押し切りたい思いが透けて見える。
さらに16日の記者会見で榛葉賀津也幹事長が「須藤元気さんは反ワクチンではない」と発言したことが報じられ、これも物議を醸した。
須藤氏の過去の発信や活動は明らかに科学的根拠に基づかない「反ワクチン」のそれであり、党が考える「反ワクチン」の定義やその審査は激甘と言わざるを得ない。活動家とも思える須藤氏の不確かな発信の数々に影響を受けた人が少なくないことは疑いようもない事実である。
X上では、「ディープステート」「ウクライナ支援反対」など陰謀論者好みのワードが含まれた須藤氏の投稿なども次々に掘り起こされ、好奇の目にさらされている。
ついでに釈明投稿により、ワクチン反対の勢力からも須藤氏は「裏切り者」扱いで、「やっぱり政治屋だった」などと非難されており、まさに四面楚歌の状況だ。
党の方針に従うとの書面にサインしたからといって、過去をなかったことにはできない。公衆衛生に対する誤った認識への反省と謝罪を求める声も出ているが、須藤氏がその声に真摯に向き合うことはあるのだろうか。
スルーしたりごまかしたりでは、新しい居場所での信用は得られないだろうし、国会議員としての再出発を目指す本人にとっても悪手に違いない。
党も本人も、これほどの拒絶反応を予測していただろうか。大事な選挙を前に、国民民主党は自らブームに水を差すやっかいごとを抱えてしまった。
文/黒猫ドラネコ