時代ごとに女性たちがどう生きてきたのか知りたい

──本作や『花様年華』に限らず、不倫関係を描く物語が作り手を、あるいは観客を惹きつけるのは、なぜだと思いますか。

やっぱり誰しも、多かれ少なかれ、その願望を抱いているのではないでしょうか。実際にそういった関係性になるかは別として、感情移入する人が多いのだと思います。自分の現実と違うからこそ、映画やドラマといったフィクションで観たい。映画の登場人物に恋をしたり、憧れたり、そういった感情と近いんじゃないですかね。

作品を観て、もし自分だったら……と妄想することも映画やドラマの楽しさですから。ただ、外山監督としては、この作品はいわゆる不倫ものとは違う世界観、あくまで大人同士の交流を描く映画にしたいとおっしゃっていて、そこには私も共感しましたし、演じるうえでも、そう見えるように心がけました。


私生活ではママとして娘の育児に奮闘中

私生活ではママとして娘の育児に奮闘中

──作中の登場人物たちが、母親あるいは父親として昼間の公園にいるときと、男女の関係で密室に二人きりでいるときと、まるで雰囲気が違いました。

役割から解放される瞬間が映し出されるようなシーンがありましたよね。でもそれが普通なんだと思います。同じ一人の人間でも、その日の体調や気分によっても違うキャラクターになりますし、一緒にいる相手との関係性や、状況や場所によってまったく違う個性が発揮されることは、ごく当たり前のことで。

人には多面性があるということが、今はだいぶ理解されるようになってきましたが、少し前までは「あの人は明るい性格」とか「控えめでおとなしい人」とか、一面的に語られることも多かった気がします。本当はそんな一面だけじゃなかったとしても。

──演じる役が自分と近い価値観を持つ人物なのか、反対に、まったく理解できない考え方を持っている人物なのか、その違いは演技に影響しますか。

それは大きいと思います。今回の作品は、身近でも起こりうる出来事を描いていたので、ふだんの自分が生活している中で聞いたり感じたりしたことがそのまま役にも反映されましたけど、役があまりにも自分とかけ離れている場合は、事前の準備が必要ですね。

その最もわかりやすい例が、自分が生きていない時代の話。私が生まれるよりずっと前の時代を生きていた女性を演じるには、今の価値観で考えるだけでは理解できないので、その時代にはどんな考え方があって、日々どんなふうに生活していたのか、まずそこを勉強しないといけませんよね。

個人的にも、時代ごとに女性たちがどんなふうに生きてきたのか、知りたいという欲求があるんです。今では当たり前になっている、たとえば女性が社会に出て働くことが、決して当たり前ではなかった時代があったとか。

キャリアを重ねた年長者だからできること

──時代による変化でいうと、映像業界でも、ここ数年でたくさんの変化があったと思います。

ありましたね。今回の作品は、外山監督が脚本と監督だけではなく、個人で製作までやっていらっしゃるんです。宣伝ポスターやスケジュールの確認も、外山監督からメールがくるんですよ。あと、その前に出演した『福田村事件』(2023年/主演:井浦新・田中麗奈/監督:森達也)は、クラウドファンディングで製作費を集めた作品でした。

製作に関することだけでも、いろんなやり方が試されていますよね。自分たちでお金も集めて、自主制作で映画を作り上げるって、スタッフのみなさんはとっても誇らしいと思います。現場の話でいうと、今のテレビドラマの現場では、スタッフさんのお子さんも預けられるシッターさんがいる話を聞きましたし、こうしたいい変化はどんどん起きてほしいです。

キャリアを重ねて現場で年長者になる機会も多くなった
キャリアを重ねて現場で年長者になる機会も多くなった

──田中さんは10代の頃から仕事をはじめて、これまでのキャリアの中では、それこそ自主制作とは真逆のような、多くの予算と大人たちが動く現場や作品もたくさん経験されています。

俳優部の中では年長者になることも多くなりましたし、監督やプロデューサーといった責任のある役割のスタッフさんたちが自分と同世代のことが増えてきて、それはびっくりしますね。これまでそういった方々は、自分よりもずっと年上という時間が長かったので、まだその感覚が残っているのかもしれません。

でも、自分と同じ40代の方々が、日本だけではなく、世界でも評価されるような作品をつくっている姿を見ると、応援する気持ちも強くなりますし、私も頑張ろうって勝手に励まされたりもしています。

──キャリアを重ねたことによる、ご自身の中での変化はありますか。

自分が頑張ることは当然として、俳優部という全体をサポートする意識は強くなりました。これまで自分が先輩方に助けてもらってきたぶん、今度は自分が助ける側にまわらなきゃ、ということは考えますね。