空気が読める人材を採用したい日本企業
大きな問題は、このように空洞化した共同体は、とりあえず権力者や体制側にとって都合がよいというところにある。自ら返り血を浴びるリスクなく強権を行使したり、ルールや慣行を盾に無理難題を押しつけたりできるからである。
しかもメンバーの従順さや忖度、メンバーどうしによる異端者・反逆者の排除といった行動は、権力者にとって心地よいだけに自戒の精神を鈍らせる。
注目すべき調査結果がある。
早稲田大学教授の吉田文は、新卒総合職の採用面接経験がある企業人を対象として、2014年10月にウェブ調査の結果(有効回答者2470人)を分析している。
それによると、「どちらの人材を採用したいか?」という質問に対する、「空気を読んで、円満な人間関係を築くことのできる人材」に近いという回答は外資系企業では事務系:30.4%、技術系:34.0%だったのに対し、日系非グローバル企業では事務系:60.6%、技術系:52.7%と大きく上回っている。
逆に「論理的に相手を説得できる人材」に近いという回答は外資系企業では事務系:69.6%、技術系:66.0%だったのに対し、日系非グローバル企業では事務系:39.4%、技術系:47.3%と顕著に少ない(2019年7月15日付「日本経済新聞」)。
先に紹介した働く人の意識調査の結果では、同僚として「積極的にチャレンジする人」より「周りとの調和を大事にする人」のほうを好む人が圧倒的に多かったが、企業側の本音もそれと符合している。
つまり、そこに均衡状態が存在しているわけである。「自治」機能を失うという共同体の空洞化が生じているにもかかわらず、均衡状態が存在するというのは何とも奇妙だ。
しかし、実はそこに落とし穴がある。
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