子どもの体毛処理と社会的規範
街中やインターネット上に体毛処理の広告があり、大人も体毛処理をおこなっているこの環境においては、子どもも「体毛処理はあたりまえ」という感覚になっていくのは不思議なことではありません。
そして子どもがそれまでの生活で、体毛を良くないものや恥ずかしいものとして学んでいることも想定されます。つまり、現在の社会の規範を子どもも取り入れ、体毛処理したいと考えるようになっていることが推察されます。そのため、子どもだからダメといった禁止は、子どもに響かない可能性があります。
しかし、体毛に限りませんが、見た目について子どもはからかう/からかわれることがあります。場合によっては、いじめにつながることもありえます。もし体毛を気にしている理由が親も納得できるようなもの、もしくは納得できなくても子どもの状況を理解できるようなものの場合は、子どもの体毛処理を認めるというのも一つの選択肢と言えるかもしれません。
ともあれ、なにごとであっても、自由な選択ができるのが大事です。たとえば、体毛処理が全員に対して強制になっている社会は健全とはいえないのではないでしょうか。確かに現在は、ほとんどの女性が社会的規範により脇毛を処理しています。
しかし、他の部位については、必ずしも多くの女性が処理しているわけではありません。男性も、一部の人は脇毛やすね毛などを処理していますが、まだ一部の人の現象です。もしそれが、全員処理していないといけないという社会的圧力のもと、強制的に体毛処理を強いられたらどうでしょうか。
そこには自由はなく、そして、従わない人は社会から排斥されることにつながります。そして子どもも、たとえば、何かしらの理由で体毛を処理できない、もしくは本人の考えで体毛を処理しなかった場合に、周囲の人から非難され、場合によっては排斥されてしまうことになります。
全員が同じことをしないといけない世界、全員が同じように体毛処理しないといけない世界、全員が同じ装いをおこなわなければいけない世界、これは自由が認められない世界です。このような世界は不健全ではないでしょうか。体毛処理に限らず、装いについて個々人が自由に選択できる余地を残しておくことは、豊かで健全な社会のためには必須といえます。
※1 鈴木公啓「子どものおしゃれの低年齢化未就学児から高校生におけるおしゃれの実態」(『慶應義塾大学日吉紀要言語・文化・コミュニケーション』、50、53―69頁、2018年)
※2ここでは、大都市は、「東京都区部、札幌市、仙台市、さいたま市、千葉市、横浜市、川崎市、相模原市、新潟市、静岡市、浜松市、名古屋市、京都市、大阪市、堺市、神戸市、岡山市、広島市、北九州市、福岡市、熊本市」としています。
※3体毛処理の実施場所の違いがあると思う人もいるかもしれません。そこで、その点についてみてみました。大都市だと実施場所が「エステサロン」とした人の割合はわずかに大きかったのですが、「家」や「病院やクリニック」とした人の割合には違いはありませんでした。
文/鈴木公啓 写真/shutterstock