藤原ヒロシ(以下藤原) デザイン集団「フラグメント fragment design」主宰。世界中の企業とのコラボレーションを手がけている
皆川壮一郎(以下皆川) クリエイティブディレクター。株式会社みんな代表(2023年時点では博報堂ケトル所属)
鹿瀬島英介(以下鹿瀬島) 株式会社ポケモン執行役員
最大のタブーだった体色変更
皆川 見慣れたピカチュウの見たことない黒い姿というのは、どのタイミングで出てきたんですか?
鹿瀬島 初めの頃に打ち合わせして、すぐ出てきた案だと思います。
藤原 何ができるかを僕らも探りながらやったので。
皆川 ただ、体色変更は最大のタブーだった、と。
鹿瀬島 そうですね。ポケモンってもともとの設定で色がそれぞれ決まっていて、そもそも体色を変更しようということに思考が至らないというか、考えつかないので、これが出てきた瞬間は、正直どうしようって思いました。
皆川 でも、皆さんかっこいいとは思った。
鹿瀬島 そうですね。一緒にやっていたチームのみんなが、「めっちゃいいですね」と言ってくれたので、「さて、どうしよう」と。
皆川 ヒロシさん、これはどういうインスピレーションで?
藤原 僕は最大のタブーっていうことを知らなかったので、服をつくったときに胸に黄色いピカチュウがあるよりは、黒でラインだけで描かれているほうがいいなと思って。普通に黒いのにしましょう、みたいな。
皆川 コラボレーションでは設けられた制約から大きく逸脱することはやらないけれど、ギリギリを攻める、という話を以前にされていましたが、そういう気持ちもあったんですかね。
藤原 そうですね。ただ、その境界線がわからなかったので、自分でできる範囲で、なおかつ、しっかりピカチュウであることがわかるものに。
皆川 ということですね。ここで鹿瀬島さんが「暗闇にいるだけで、体色が変わったわけではない」と言い張った。
鹿瀬島 そうですね。体色を変更するということはルールを破ることになるので、いろいろなステークホルダーに、体色を変えることの理由を説明して納得してもらう必要がありました。
なので、ヒロシさんとお話ししているときに、「暗闇にポケモンたちがいるというシチュエーションだったらどうでしょう」と。「そうしたら、みんな黒くてもいいですよね」という話をしたことをすごく覚えています。
皆川 暗闇にいるだけ?
鹿瀬島 はい。その解釈で設定をつくり、ステークホルダーを説得して回りました。本当はもうちょっといろいろあったんですけど、突破したという感じですね。
皆川 鹿瀬島さんがすごいのは、ヒロシさんから提案されたアイデアの許可をその都度、ステークホルダーにとっていたということです。
鹿瀬島 任せられている部分はもちろんあるんですけど、本来あるべきルールを破ることについては、ちゃんと合意をとって進めていました。
藤原 ファッション業界だと、僕を言い訳にするというか、免罪符にして、「藤原ヒロシが言うんだったら仕方ない、やるしかないか」とか、「藤原ヒロシがわがままで、これができないならやらないと言うんです」となることが多いんですよ(笑)。
鹿瀬島 あとは、このプロジェクトが世の中に出たときに、その反響を見てみんな納得するだろうという。その算段だけでやっていきました。