会見で伊藤詩織氏に聞きたかったこと

本作品に関する懸念事項は、2024年10月に伊藤詩織氏の民事訴訟の元代理人である西廣陽子氏らによる記者会見によって提起された。

西廣氏らは公に呼びかけることで伊藤氏に必要なアクションを取ってもらいたいと話したが、再編集がなされぬまま世界中での上映が続いている事態と、前回記者会見から西廣氏らのもとに寄せられた無断使用に関する複数の連絡(匿名を希望)を踏まえ、西廣氏らは今年2月に再度記者会見を行ない、追加論点を明らかにした。

なお、当初は2月12日を予定していたが、伊藤氏側からも説明の機会が同日に欲しいとの申し入れにより、会見は2月20日へと再調整。

変更前作品(海外上映中の作品)の上映会・西廣氏らの会見・修正後の作品の上映・伊藤氏ら(伊藤詩織監督、エリックニアリプロデューサー、弁護士2名)による会見と一日がかりのスケジュールが組まれていたが、伊藤氏にドクターストップがかかったことにより、すべての上映会と伊藤氏サイドの会見は中止となった。

伊藤詩織氏 写真/共同通信社
伊藤詩織氏 写真/共同通信社

代わりに伊藤詩織氏・弁護士らによるステートメントや説明資料が配布され、そのなかで伊藤氏は「承諾が抜け落ちてしまった方々に、心よりお詫び申し上げます」と記し、最新版では個人が特定できないように対処し、今後の海外での上映についても差し替えなどできる限り対応していくと述べるが、その一式の資料には、残念ながら私の聞きたかった質問への答えはなかった。

聞きたかった質問とは、伊藤氏がなぜその映画を作ったか、その映画にどのような意味を込めたのかという監督としての、あるいは性暴力サバイバーとしての「願い」の部分ではない(なお誤解のないように言っておくが、願いと想いについては伊藤氏が2025年3月号『世界』へ寄稿した文章を読めば十分に理解できるためである)。

聞きたかったことは、「すでに私たちが知っていること」ではなく、「返答されてこなかった部分」についてである。すなわち、その映画を作り、世界に流通させる過程において、どのような説明責任を果たしてきたかという点だ。