2つのリスク

2005年の愛知万博では入場券を売り出した当初から、全国のコンビニや旅行会社、主要な駅などでも買えるようにしていた。

そんな状況を打開する一手が「紙チケット」だった。万博協会は開幕が約10カ月後に迫っていた2024年6月の理事会で、販売の方針を決めた。コンビニなどで買いやすく、家族らへの「贈り物」としても需要があると考えたという。

電子チケットを買った人は事前に来場日時の予約をする必要があったが、紙チケットなら会期の一部で、予約なしでも入場を認めることにした。だが予約なしで入場を認める期間をめぐっては、万博協会と府市がなかなか折り合えなかった。

「万博の運営費が赤字になった時に、『誰が責任を負うのか』という問いがまずある。政府は支出をしないということが(2017年4月に)閣議了解されている。また、政府は赤字になっても責任は負わないという(国会)答弁が大臣からされている」

「国が負担しないものを大阪府市が負担することもできない。そうなると、(万博は)赤字は絶対に出したらいけない事業になっている。チケットは売りやすく、買いやすく、使いやすく、分かりやすいことが必要だ」

2024年9月13日に開かれた万博協会理事会の中盤。府知事の吉村(万博協会副会長)は、そう危機感をあらわにした。1カ月後の開幕半年前から売り出す紙チケットの購入者については、来場日時の予約をしなくても幅広く入場を認めるよう迫った。

理事会の2日前の時点で、入場券は約500万枚が売れた。開幕までの目標の35%ほどにとどまっていた。大半は企業による「まとめ買い」とみられた。

街には万博仕様のマンホールが登場しているが…
街には万博仕様のマンホールが登場しているが…

ただ、万博協会幹部の多くは予約なし入場を心配していた。「(来場者が殺到して)入場ゲートが制御できなくなると地下鉄の駅に影響が出て、会場だけでなく市民生活にも影響が生じる」(理事会出席者)などと考えたからだ。

前売り券の販売が好調とは言えないため、赤字と会場運営という2つのリスクが生じていた。「会長一任」として議論を引き取った十倉雅和(経団連会長)は、苦心をにじませた。「売り上げを確保するのは、もちろん大事。安全・安心なくしては、来る人も増えない。どう天秤にかけるかだ」