無印良品、バターチキンカレーの原点

カレーの旅は、ニューデリーから始まった。私が参加する前にも、すでに無印良品の担当者とメーカーの方々は同様の経験があるため、インド訪問は慣れたものである。

デリーは環境も建物も近代的なニューデリーと、そのなかにある昔ながらの街並が残るオールドデリーという区域に大別される。ニューデリーは道も舗装されていて綺麗だ。インターナショナルクラスのホテルも多く、レストランも清潔。

インドのトイレ事情は概して女性にとって好ましくなく、コーディネーターはトイレ休憩として綺麗な大型ホテルに私たちを連れていく配慮を欠かさなかった。

ニューデリーの通り 写真/iStock.com/Anton Aleksenko
ニューデリーの通り 写真/iStock.com/Anton Aleksenko
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ところが、ひとたびオールドデリーの区域に入ると様相は一変する。人はいたずらに多く、車のクラクションもけたたましい。働いているような、働いていないような人で埋め尽くされていた。

建物につながる電線は、束ねられているのかどうかわからない不規則さで垂れ下がり、道路は数年前に舗装した雰囲気はあるものの、その面影はない。溝にはどろんとした水があふれていたが、見ないことにした。

しかし、明確に何とはわからないが心に溶け込んでくる〝なにか〟がある。目に入ってくる色は人、家の壁、料理、スパイス売り場……みんな地球色である。オールドデリーは喧噪のなか、日本人が忘れかけた、湧き上がるような生命感に触れることができる場所なのだ。

オールドデリーの雑踏 写真/iStock.com/xavierarnau
オールドデリーの雑踏 写真/iStock.com/xavierarnau

バターチキンカレーのヒント探しは、メーカーの〝インドフリーク〟がイチオシの店舗からスタートした。非常に繁盛している大衆店舗だ(名前は伏せるが、本書執筆時点でも存在)。店の前には群がるように人が集まり、列などはなく、あったとしても順番は守られない。席が空くまでしばしの「待ち」である。

この店は間口4メートル程度の小さな店で、2階にも席がある。外からガラス越しにカレーを煮込む小さな厨房が見え、調理人が手際よく料理をしている。

食い入るように見ながら写真を撮ろうとすると、厨房スタッフが「No! Photo!」と制す。久しぶりのカオスに怖気づくが、ここはしっかり目に焼き付けるべしと、食い入るように見つめたところ、おもしろいことがわかった。

「なるほど、これがインド料理のコツのひとつやな!」