ロシア・マネーでトランプは「成功者」に
セイターがカザフスタン出身の元ソ連政府高官でクロム鉱で儲けたテブフィク・アリフという人物と共同でトランプタワーに事務所を置いたのは「ベイロック・グループ」という不動産開発会社だ。アリフがカザフスタンなど旧ソ連諸国のお金持ちから巨額の資金を集め、トランプが売り出したフロリダ州の別荘などに投資させた。
2005年に発売された46階建ての「トランプ・ソーホー」はトランプの新しいビジネスモデルを展開するきっかけとなった。トランプはただ名義を貸すだけで、トランプ本人に15%、長女イバンカと長男ドナルド・トランプ・ジュニアに各3%の所有権が与えられた。
米大統領選挙の前に、モスクワにトランプタワーを建設する計画が持ち上がり、セイターはイバンカとジュニアとともにモスクワに同行、クレムリンのプーチン大統領の執務室を見学、その際大統領の椅子に腰かけたと米紙では伝えられた。
トランプは2004年から『アプレンティス(徒弟)』と題するテレビのリアリティ番組に出演、「ユウ・アー・ファイアード(君はクビだ)」の決まり文句とともに有名になった。
トランプはロシア・マネーのおかげで「ビジネスの成功者」というイメージを売り出すのに成功した。ロシア情報機関も加わって、いつの時点でロシアが支援してトランプが大統領選挙に出馬するプロジェクトがまとまったのだろうか。特別検察官はセイター自身も調べたが、その経緯はつかめなかったようだ。
もう一つのルートがある。それは2013年11月9日にモスクワでミスユニバース世界大会が開かれ、トランプはその主催者として司会をし、多くのロシア関係者と知り合いになったことだ。トランプが特に親しくなったのは、ロシアの大手不動産会社「クロカス・グループ」のアラス・アガラロフとその息子らのグループだ。
この人脈が、2016年大統領選挙中の6月9日に、トランプタワーで、米露の計8人の会合につながったとみられる。米側はトランプの長男、ドナルド・トランプ・ジュニア、娘婿のジャレド・クシュナー、選対本部長のポール・マナフォートら。
ロシア側は、プーチン側近の一人ユーリー・スクラートフ元検事総長に近い女性弁護士ナタリア・ベセルニツカヤ、元タブロイド紙記者ロブ・ゴールドストーン、米露二重国籍の元ソ連軍情報将校でロビイストのリナート・アフメトシンらがいた。
その際、ヒラリーの不祥事についてロシア側から情報を得る約束について話をしたようだ。それ以外に具体的な工作を話し合う「謀議」があったかどうかは不明だ。
写真/Shutter stock