車いすラグビーとの本当の価値とは
「車いすラグビーが上手になって、日本代表になった。それだけでは、なんというのかな……自分のことだけ考える選手では難しいと思います。自分の身近で応援してくれている人、支えてくれる人、そういった人たちに何かを返していく。そこに、車いすラグビーというスポーツの本当の価値があるということを伝えていきたい」
車いすラグビーは、障害の重い0.5から軽い3.5までポイント制にしてクラス分けし、コート上の4人は合計8点以内(女性が1人入ると0.5点プラス)で編成する。
車いす同士がぶつかる時には火花が散るほどの激しさがある一方、多様な障害の人が参加できる。そのため、他の競技よりも重い障害の選手が多く、男女混合チームもある。
池自身は、19歳の時に交通事故に遭い、炎上する車の中で3人の友人を亡くした。全身の70%に火傷を負い、左脚を切断。今も左腕はほとんど感覚がない。車いす生活になってからは車いすバスケをしていたが限界を感じ、2012年に車いすラグビーに転向した。その中で、たくさんの人に支えられて、金メダルまでたどり着いた。
「自分のために頑張るよりも、他人のために頑張った方が良い結果が出やすいという研究結果もあるように、『何かのために』『誰かのために』という思いを持って感謝をし続けていれば、いろんな経験ができる。結果が出た時の喜びも大きくなると思うんです」
そこに、池が考えるパラスポーツの価値がある。
「パラスポーツの場合、選手は過去に病気やケガなどで大きな挫折を味わっていて、それを支えてきた人との絆は、本当にいろんな形があります。選手一人ひとりに『出汁』がいっぱい出ている。競技で使う道具一つにしても、その選手が持つ障害の特性に合わせた工夫がたくさんあるんです。聞いたら何でも答えを出してくれるAI時代だからこそ、人間の限界を超える創造的なところに、パラスポーツの面白さと喜びがあるのではと思います」
今後は、代表選手の育成だけではなく、次世代の発掘にも力を入れていくつもりだという。地方都市での車いすラグビーの普及も重要だと考えている。高知で育ち、高知で事故に遭い、高知で競技人生を歩んできた池らしい「次の夢」だった。
写真/越智貴雄 文/西岡千史