ボコ・ハラムに拉致された少女が組織に留まりたがる理由

2014年、ナイジェリアでボコ・ハラムに拉致された数百名の女子生徒を救出するための必死の取り組みを促そうと、ソーシャルメディア上でハッシュタグを用いて「#BringBackOurGirls」という呼びかけが広く展開された。ホワイトハウスのミシェル・オバマからバチカンのローマ教皇フランシスコまで、世界中が団結したキャンペーンだった。

監禁中に亡くなった可能性の高い少女のニュースがたびたび報じられ、時には、何とか脱出に成功した少女に関する記事もあった。しかし、誰も予想していなかったことがあった。

拉致された少女たちの一部は、自由の身になっても、自分たちを拉致した男のもとに留まることを選んだのだ。

拉致され、過激な思想を植えつけられると、心に傷が残る。気持ちも混乱する。その結果、拉致の被害者は、性的奴隷として人身売買された女性が殴られて屈服するのと同じように、拉致した人物に執着するようになる。

拉致した相手の子どもを出産すれば、少女は家族を捨てる気にはなれない。それに、両親は必ずしも少女たちの帰宅を歓迎していなかった。だが、そこには別の原因が影響している場合もあった。

#BringBackOurGirlsの様子
#BringBackOurGirlsの様子
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BBCが報じた記事で、ある若い女性は、「ボコ・ハラムの妻として周りの人たちの尊敬を集めるのが楽しかった」とジャーナリストのアダオビ・トリシア・ヌワウバニに語っている。その若い女性は女の奴隷を何人も支配下に置くことができたという。

ボコ・ハラムのメンバーを過激思想から脱却させる活動に携わってきた精神分析医は、次のように説明する。

これらの少女たちは家父長的なコミュニティで生まれ育ち、ほとんどは働いたこともなく、権力も発言権も与えられていなかった。それが突然、捕虜としてではあっても、自分の言いなりになる30人から100人もの女性たちを指揮するようになった。すると少女たちは、どちらが自由かと比較して考えるようになる。

彼女たちはたとえ故郷に戻っても、「戻る先の社会ではそんな権力はもてない」と悟ったのだろう。そう精神分析医は語った。

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文/アンジェラ・サイニー(訳=道本美穂) 写真/Shutterstock

家父長制の起源 男たちはいかにして支配者になったのか
アンジェラ・サイニー (著), 道本 美穂 (翻訳)
家父長制の起源 男たちはいかにして支配者になったのか
2024/10/25
2,530円(税込)
416ページ
ISBN: 978-4087370065

《各界から絶賛の声、多数!》

家父長制は普遍でも不変でもない。
歴史のなかに起源のあるものには、必ず終わりがある。
先史時代から現代まで、最新の知見にもとづいた挑戦の書。
――上野千鶴子氏 (社会学者)

男と女の「当たり前」を疑うことから始まった太古への旅。
あなたの思い込みは根底からくつがえる。
――斎藤美奈子氏 (文芸評論家)

家父長制といえば、 “行き詰まり”か“解放”かという大きな物語で語られがちだ。
しかし、本書は極論に流されることなく、多様な“抵抗”のありかたを
丹念に見ていく誠実な態度で貫かれている。
――小川公代氏 (英文学者)

人類史を支配ありきで語るのはもうやめよう。
歴史的想像力としての女性解放。
――栗原康氏 (政治学者)

《内容紹介》
男はどうして偉そうなのか。
なぜ男性ばかりが社会的地位を独占しているのか。
男が女性を支配する「家父長制」は、人類の始まりから続く不可避なものなのか。

これらの問いに答えるべく、著者は歴史をひもとき、世界各地を訪ねながら、さまざまな家父長制なき社会を掘り下げていく。
丹念な取材によって見えてきたものとは……。
抑圧の真の根源を探りながら、未来の変革と希望へと読者を誘う話題作。

《世界各国で話題沸騰》

WATERSTONES BOOK OF THE YEAR 2023 政治部門受賞作
2023年度オーウェル賞最終候補作

明晰な知性によって、家父長制の概念と歴史を解き明かした、
息をのむほど印象的で刺激的な本だ。
――フィナンシャル・タイムズ

希望に満ちた本である。なぜかといえば、より平等な社会が可能であることを示し、
実際に平等な社会が繁栄していることを教えてくれるからだ。
歴史的にも、現在でも、そしてあらゆる場所で。
――ガーディアン

サイニーは、この議論にきらめく知性を持ち込んでいる。
興味深い情報のかけらを掘り起こし、それらを単純化しすぎずに、
大きな全体像にまとめ上げるのが非常にうまい。
――オブザーバー

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