施設に来る人の90%以上がストロング系缶チューハイを飲んでいる
近年、若い人のアルコール依存症者が増えていると内村さんは言う。
「5〜6年前、研修を受けたとき、アルコール依存者の平均寿命は52歳と聞きました。近年はアルコール依存者が医療につながる仕組みの充実や、医療自体も進歩して、お酒で身体を壊して亡くなる人は減少傾向ですが。替わって増えているのが事故や自死です。
アルコール依存の原因は様々ですが、今はストロング系缶チューハイという、手っ取り早いお酒がありまして。この施設に来る90%ほどの人がこのお酒を飲んでいます。
ストロング系はお酒が美味しいとかではない。ジュースのように口当たりがよくて安くて、手っ取り早く酔っぱらうためのお酒です。ワンカップの日本酒よりも、ストロング系缶チューハイなら若い女性も、手に取りやすい」
内村さんは今も月に何回か、自助グループの例会に出席している。彼は言う。
「断酒をして16年になりますが、自分の中の〝両価性〟は未だに消えません。『飲みたい自分』は完全にはなくならない。お酒は人の孤独が大好きです。多分、『飲みたい自分』の方は、僕を一人にさせようとしているのだと思う。だから、定期的に断酒の〝群れ〟の中に身を置く。常に『飲みたくない自分』の軸足を踏み固める」
横浜マックを退所して社会に復帰し、禁酒を続けている顔見知りも自助グループの例会で出会う。施設にいたときはスタッフと入所者の関係だが、自助グループでは同じ〝群れ〟の仲間だ。かつての通所者と対等な立場で話ができることが、嬉しいと彼は言う。
最後に内村さんは、断酒の極意を語った。
「断酒を決意するには〝底つき〟が必要だとよく言われます。〝底〟は人によって異なりますが、これ以上飲んだら死ぬ、本当にダメになる、ここが底だ、と信じたら、まず底に手をつく。そして脱出するぞと、立ち上がる試みを繰り返すのです」
アルコール依存症は前を見るのが難しい病だ。だから、手をつき立ち上がる自分の姿を繰り返しイメージしてほしい──
それは断酒中のアルコール依存症者から、お酒に問題を抱える人たちへのエールでもあるのだ。
協力/NPO法人「横浜マック」スタッフ 内村晋さん
文/根岸康雄
写真/shutterstock